「空は可愛い千尋の家族なんだ。お姉ちゃんと将大さんが残した、私の宝物なんだ」

・・・・・・・え?

「だから、もう絶対に離すもんか。ずっと探していた千尋の『宝物』なんだから。遠くに、千尋の手の届かないところに行ったら、もう絶対に許さないぞ!」

・・・・・・。

「本当に許さないぞ・・・・・」

「千尋さん・・・・・」

千尋さんの目から数滴の涙が零れ落ちるのが見えた。
そしてそれはまるで、千尋さんが過ごした辛い過去の様に見えた。

お姉ちゃんが亡くなって、そのお姉ちゃんの娘である私が自殺未遂。

ありえない現実に、感情を抑えられない千尋さん。

『人生、生きていても辛いことばっかり』とでも言う様に。

・・・・・・・・・。

てか、辛いのは私だけじゃないんだよね。

みんな、私以上の辛さを背負って生きているんだよね。

・・・・・・。

だったら、私が千尋さんを助けないと。

「大丈夫です!私にはその、千尋さんや誠也さんが付いていますし。何かあったら、みんなが助けてくれると信じてますし」

私らしくない言葉だと言うのは分かっている。

「あーでも、頼ってばっかじゃなくて『自分からも行動したい』って言うか。いつかはみんなに成長したねって認めもらいたいって言うか、なんて言うか・・・・・」

でも、前に進まないと変われない。
『変わろう』と意識しないと、人間絶対変われない。

「だから、『逆に私がみんなを支えていけばいいかな?』って思っています。なんて言うか、私も頼られたいって言うか・・・・・・」

そう言えば変な空気になって、みんな笑ってくれると思った。
だって数分前まで『死にたい』と言っていた奴が変なことを言っているんだし。

だからここは絶対に笑われると思ったけど。

・・・・・・・・。

本当に二人は笑ってくれた。
小さな笑みを見せて、千尋さんは自分の涙を拭ってくれる。

誠也さんは軽く私の頭をチョップしてくる。
意味のわからないことを言ってくる・・・・。

「空ちゃんのくせに生意気。そうやって独立しようとする空ちゃんは嫌いだ。また勝手に変な行動を起こしそうだし。てか『首輪』をつけてやったのに、もう森に帰りたい宣言?それだけは許さないよ」

「せ、誠也さん・・・・・・ってか森?」

この人は相変わらず私を『人』として見てくれないな。
まるで私を本当にハムスターの様な小動物の様に手懐けてくるし・・・・。

・・・・・・・。

頭にきた。絶対に訴えてやる!

って思ったけど・・・・・・。

「でもよかった。空ちゃんの本音が聞けて。本当に良かったよ」

その誠也さんらしい言葉に私は嬉しくなって、いつの間にか頷いていた。

そして、『明日も世界は回っている』と誠也さんは教えてくれる。

「みんなで頑張っていこう。そして、人生楽しもう。俺らの人生はまだまだ長いよ」

「うん!」

その大きな返事は、私の声だ。
『明日が楽しみ』だと言う私の声。

無意識に出た、美柳空の声。