「だから本当は空には『母方の祖父祖母』がいるんですけど、祖父祖母も空の存在を認めていないですし。顔も知らないと思いますし。祖父祖母に当たるのに、本当に赤の他人って言うか」

時々ベッドの上で眠る空の姿を確認する千尋さんの言葉を聞いて、『知らなかった』と言うのがあたしの心の言葉。

と言うかこの事実を空は知っているのかな？

・・・・・・。

いや、多分知らないだろう。
空の様子から、千尋さんの存在自体知らなかったと思うし。

空の口から千尋さんの名前を聞いた事ないし。

そんな中、千尋さんの言葉に孝太は再び問い掛ける。

ちなみに海は頭を抱えて混乱中。

「空のお母さん、どんな仕事をしていたのですか？」

「ん？そうですね。お姉ちゃん、音楽の才能があったから、音楽関係の仕事ですよ。作詞作曲して自分で曲を作っていました」

「音楽ですか？」

千尋さんは小さく笑って答えた。

「実は千尋の踊っている動画は全部私のオリジナル振り付けで、曲もすべてお姉ちゃんが作ってくれた曲なんです。 お姉ちゃんが隠し持っていた音楽に勝手に振り付けを付けて投稿しているって言うか」

なるほど。
そもそも何の話をしているのかすら分からないあたしには、さっぱり分からない。

『踊っている動画』と言うのも何を指しているのか分からないし。

そうやって海同様に混乱し始めたあたしの姿を見たのか、千尋さんは苦笑いを浮かべる。

「って、ちょっと難しい話しかな？」

ちょっとと言うより、かなり難しいです。
まるで違う国の言葉で話されたような気分だ。

と言うかみんな、『躍り手』って知っているのだろうか？
テレビもネットも見ないあたしには難し過ぎる言葉。

空は知っているのかな？

「千尋。企業の人と打ち合わせはもういいのか？」

それは部屋に入ってきた誠也さんの声。
誠也さん、先生との話が終わったらしい。

千尋さんはまた苦笑いを浮かべて答える。

「うん。ま、それどころじゃないんだけどね」

そう言った千尋さんは、空の頬を軽く撫でた。
自身の姉の娘の今の姿に、涙を見せたのはのは気のせいかな？