「そういえば空を助けてくれた人ですよね?」

その言葉に海も何かを思い出す。

「あっ、よく見たら本当だ。あの後すぐに消えたし」

孝太の言う空を助けてくれた人。
間違いなく廃ビルでの一件だ。

自殺する空を助けようとした人だ。

それにあたしも思い出したけど、この人の声だ。
廃ビルの屋上で『助けて』と叫んでいた人。

この声があったからあたし、海と孝太の元へ行けたんだ。

なんですぐに気が付けなかったんだろう。

「だってさ、チロルさん。自己紹介しておいたらどうですか?この子達をファンにするチャンスですよ」

「う、うん。そうですね」

真奈美さんの言葉に小さく頷いた『チロル』という変わった名前の彼女。

「チロル?えっ、チロルって!」

そして驚く海を一度確認すると、彼女は自己紹介をしてくれる。

「はい。ネットでよく踊っている人です。チロルです。一応本名は宝千尋(タカラ チヒロ)です」

ネットで踊っている。
その言葉の意味がよくわからなかったけど、多分凄い人なんだとあたしは思った。

『クリエーター』って人なのかな?
よく分からないけどお金持ってそうなイメージ・・・・。

そんなチロルさんこと千尋さんに、孝太は何かを思い出したかのように問い掛ける。

「宝千尋・・・・、もしかして赤崎高校の卒業生ですよね?」

「えっ、そうなの孝太くん」

海の言葉に孝太は頷く。

「確か剣道でインターハイチャンピオンだったような・・・・・。学校の道場に写真ありますよね?」

真奈美さんは大きく頷く。

「そういえばそうみたいですね。お兄も言ってましたし。今の躍り手の印象が強すぎて忘れてましたね。ってかメンタルはナメクジ以下の千尋さんなのに」

「だからナメクジはいいって!もう・・・・」

真奈美さんの言葉に千尋さんはため息をひとつ吐いた。
何だか空を見ている気分。

と言うかメンタルはナメクジ以下ってどうなんだろう?

アイツら、塩かけたら小さくなるけどちゃんと生きているし。
死んでしまうこともあるらしいけど、『自分で水分求めて元の姿に戻る』って聞いたことあるし。

そう考えたらナメクジ、結構図太い奴だとあたしは思うけどな。
ちょっと挫折じゃ挫けない強いメンタルの持ち主って言うか。

・・・・・ってあたしは何を考えているんだ?

そうやって大して意味のない知恵を思い出していたあたしの隣で、千尋さんは改めて挨拶。