「ってか真奈美、呼んでいたって?」

兄である誠也さんの言葉に、真奈美さんは答える。

「あー、うん。『空ちゃんのことで話があるから』って。空ちゃんの家族はキヨさんだけだけど、忙しくて来れないらしいから代わりにお兄が行ってきてよ。どうせ『将来の旦那』なんだから」

直後、誠也さんは苦笑い。

「あはは。その発想か・・・・・。裕香には聞かせれない台詞だな」

裕香って誰だろう。
あたしの担任の先生の名前も確かそんな名前だったけど、まさかその人じゃないよね。

そんな事を考えているあたしの隣で、誠也さんは椅子から立ち上がると病室から出ていった。
今からどんな話があるのだろうか?

一方で真奈美さんはベッドの上の空の元へ向かうと、空の額を軽く撫でた。

そして小さな声で呟く真奈美さん。

「さてと・・・・。いい加減いつになったら目を覚ますんだろうね。このバカな子は」

その独り言の後、みんなの視線はベッドの上の空に移った。
同時に少し不安になるような表情を浮かべるあたし達。

『そのまま空が寝たきりになったらどうしよう』と思うあたし・・・・。

そんな中、この重たい空気を打ち破るように病室の扉をノックする音が聞こえた。

真奈美さんがすぐに反応する。

「はーい!どーぞ!」

その明るい声を聞いた人は扉を開けて入ってくる。
とても空に良く似た人が、小さな声と共に部屋に入ってくる。

「失礼します・・・・」

現れたのは一瞬『空のお姉さん?』って思わされほどの女性だった。
明るい髪色のショートヘアの女性は運動をしているのか、とても細い。

あとちょっと変わった雰囲気の持ち主だ。
『オドオドしている』って言うか、空に似た雰囲気って言うか何て言うか。
人と接するのが慣れていないって言うか・・・・。

まああたしも人のこと言えないけど。

「って千尋さんじゃん。別に普通に入ってきたらよかったのに」

『千尋さん』と真奈美さんに呼ばれた女性は、苦笑いを浮かべて答える。

「いやその・・・・。あんまりなれないって言うか・・・・・」

真奈美さんはため息を一つ吐く。

「相変わらず変な人。裕香さんにお兄を取られた理由がよく分かる」

「ちょ、真奈美!それは言い過ぎなんだけど言い過ぎじゃないって言うか。いや、実際にはその通りなんですけど・・・・あー」

怒ったり否定したり自分に納得したり考え込んだり、何だか忙しい人だ。

まああたしもあまり人のこと言えないけど。

そんな『千尋さん』と呼ばれた彼女をいじる真奈美さん。

「ホント、踊っているときはメチャクチャ輝いているのに、人間性はナメクジ以下ですね」

「な、なめくじ?それ、ちょっと酷くないですか?」

「じゃあペンギン!陸地ではよちよち歩くけど、水中ならスッゴク早く泳ぐペンギンなんてどうですか?」

「ぺ、ペンギン?あはは、どうだろ」

この人、あたしや空同様に人と話すことが苦手みたいだ。
落ち着きがないのか、ずっと目が泳いでいる。

それとも何か理由があるのかな?

そんな彼女に孝太は問い掛ける。