「ありがとう、海と孝太。本当にありがとう」

初めて呼ぶ二人の名前。
正直言って何故か凄く恥ずかしい。

そして海も満足してくれたのか、海はあたしの頭を撫で始めた。
また海は優しく笑ってくれるけど・・・・。

・・・・・。

海は馴れ馴れしく『生意気な奴』だと思わされる。

ってかコイツ、馴れ馴れし過ぎ。

「って撫でるな!触んな!」

そう言って海の手を振り払った。
そうしたら海はなぜか喜ぶ。

「おっ、こう言う所、空ちゃんと似ているよね」

孝太は何度か頷く。

「あー、確かにそうかも。あいつも撫でられるの嫌いだったもんな。まあホントは照れているだけで、撫でられるのは好きな方だと思うけど。多分燐もそう言う奴だと俺は思うけど」

へぇー、そうなんだ。
二人よりあたしの方が空と居た時間が長かったのに、それは知らなかったな。

初耳だ。

・・・・・・。

今思うとあたし、空の事を何も知らなかったんだな。

ちょっと悔しい。

「ってかおい花音、お前さっきから何どさくさに紛れて燐の財布スろうとしているんだ?」

突然の孝太の言葉に、あたしはここにいるもう一人の存在をを思い出した。
どさくさに紛れて、あたしの鞄に入っている財布に手を伸ばす花音。

ってこら!

「ちょ、花音?ってアンタきゃあ!」

あたしに自分の行動がバレた花音は、急にあたしの胸に抱き付いてきた。
あまりにも唐突過ぎたから、付いていけない。

そして花音も『花音らしい言葉』で、あたしを祝福してくれる。

「やったね!りんりん!また友達が増えたね!」

『友達が増えた』か・・・・・・。

その言葉、いつも誰かに脅えていたあたしには凄く嬉しい。
『苦手なことを少し克服して、仲間が出来た』って思ったら、『頑張って良かった』って思うし。

ホント、嬉しい・・・。

「うん。そうだね」

あたしは嬉し涙と共に笑みも溢した。
信じている人しか見せない、本当のあたしの笑顔。

最後に笑ったのはいつだったっけ?
全然覚えていない。

でもその笑顔も一瞬だけ。
隣にいる花音の姿に、あたしは違和感を抱いた。

ってかコイツ、今何していたの?

「ってか花音、泣いていたんじゃないの?」

「泣いていたよ。でも何だか良い話しになって来たから、泣くのやめた。でもやっぱり『りんりんの成長』に、また泣いちゃった」

花音は笑顔で答えてくれた。

ってか、恥ずかしいこと言うな!
また『りんりん』なんてふざけた名前で呼んでくるし。

海に真似されるからやめて欲しいのに。

・・・・・・。

頭に来た。

「りんりん呼ぶな!その呼び方いい加減にして!」

「って言われてもなー。りんりん可愛いし。連れて帰りたい!お持ち帰りしたい!」

・・・・何言っているの?花音。

笑顔見せる花音が、今は怖い。
恐ろしく怖い。

あたしのことを何だ思っているのだろうか?

そんなことを思っていたら、また花音はあたしの鞄に手を伸ばす。
私の鞄から少し顔を出す財布を奪い取る。

ってこら!

「やーい!りんりんの財布ゲット!」

「あっ、ばか、返せ!こら花音!」

花音はあたしの財布を奪うと、席を立って店内から飛び出した。

もちろんあたしも花音の背中を追う。
花音の足はあまり早くないから、すぐに追い付けるだろう。

てか花音、それ犯罪!