「ごめん。ただの思いつき」

「・・・・・・・は?」

・・・・・・。

なんで?
なんでそんなこと言えるの?

あたしをバカにしてるの?

「・・・・・お前、ふざけてんのか?」

川下は首を横に振って否定する。

「ふざけてない。思ったことを言っただけ」

「それを『ふざけている』って言っているんだよ!」

まるであの調理実習のように、あたしは喧嘩覚悟で怒鳴った。
この楽しい雰囲気をぶち壊すほどの大きな声。

冷静さを失ってしまったあたし。

・・・・・・なのに、今日のコイツはいつだって笑顔だ。

「そうかな?でも空ちゃんって、『他人を恨めない女の子』じゃん。『全部自分のせい』にして、『勝手に自分が悪い』と勘違いしてめんどくさい女の子。だから、空ちゃんは一度も北條の事を嫌いとかそんな感情を抱いたことはない」

・・・・嘘つけ。

「空から聞いたわけでもないくせに」

「確かに。これに関しては私の思い付き。私もまだ空ちゃんの全て知っている訳じゃない」

そう言った直後、川下の笑みがより一層深くなった。

心の底から『空が大好きだ』とでも言うような、優しい川下海の笑顔。

「だから勝手にそう思って、私の勝手で『空ちゃんを信じること』にしたの。『空ちゃんはそんなことを一切思わない優しい女の子なんだ』って私は信じてみる」

・・・・・・・・。

本当に、どこまでも都合のいい女だ。

「ホント、アンタ頭おかしいよ」

「あはは。それ孝太くんにも同じ台詞を言われた」

川下は小さく笑うと続ける。

「でもさ、『私達が出来ること』って結局限られるじゃん。私と北條が仲良くなっても、空ちゃんがそれを拒んだら何にも意味がない。私達がこうやって仲直りする意味もない。だからこそ、私は空ちゃんを信じてみる。『絶対に私達に空ちゃんは振り返ってくれる』って、空ちゃんを信じてみることにした!やるだけのことやったら、後は空ちゃんが喜んでくれるのを信じて待つだけだし!」

笑顔で話す川下の力強い眼差しが、どこかあたしの心に突き刺さった。
一瞬たりともあたしから目を逸らさなかった川下海の瞳。

こういう人間を、『本当の友達』と言うのだろうか?

空と川下は『友達』と言えるようになるのだろうか?

なんにしろ、あたしには絶対に出来ない。

あたしにはそんな力はない・・・・。

でも川下もあたしと同じ人の子で女の子だ。
突然顔を真っ赤に染めて、あたしには問い掛ける。

「・・・・・変かな?」

さっきの自分の言葉が変ってこと?

そうだね・・・・。