「どうして言ってくれなかったんだ?」

お父さんの言葉に私は言葉を失う。
理由は分からない。

そして何も答えない私を見て、お父さんは自分を責める。

「俺が頼りないからか?」

言葉が上手く出てこないから、いつの間にか私はうつ向き、首を横に振って否定する。

「じゃあどうして?」

「わからないよ」

いい加減な私の返事に、お父さんは腕を組ながら小さく二度頷いた。
同時にお父さんは胸ポケットから煙草とライターを取り出すと、煙草に火を付ける。

そしてお父さんは煙草を吹かしながら、何かを考えていた。
うつ向く私に時々視線を送りながら、営業時間を削ってでも私と向き合ってくれる。

誠也さんは私達に気を使ってくれているのか、別の部屋で洗い物をしているみたいだ。静まり返ったお店の中に、『洗浄機』と言う食器を洗う機械が動いている音が聞こえる。

その音以外は何も聞こえない。

強いて言うなら、私の心臓の音くらい。

・・・・・。

お父さんに『自分がいじめられている』と言うことを知られた以上、私は逃げれない。

だからこそ、覚悟を決めて、素直にお父さんに話してもいいと私は思う。
お父さんなら必ず味方になってくれるはず。

でも、それを拒む馬鹿な自分がいる。
『お父さんに心配させたくない』と思う、意地っ張りで馬鹿な私がいる・・・・・。

そして意地を張っているから、『またお父さんに心配されている』と言うことに、十六年しか生きたことのない私はまだ気が付かない。

「空、今が苦しいか?」

私は小さく頷いて返事をする。
どうしてもここだけは嘘をつけない・・・・・。

「そうか」

お父さんはそう呟くと、近くにあった灰皿に自分が吸っていた煙草を捨てる。
同時にお父さんは声を張る。

「誠也!ちょっとこい!」

「はい。なんですか?」

すぐに慌てた表情の誠也さんがやって来た。
少しだけ誠也さんの手には洗剤の泡が付いている。

そんな誠也さんに、お父さんは『私を救うため』だけの、意味の分からないことを言っている。

私のことだけど考えてくれた、お父さんの提案。