「ごめん、北條。私、アンタの気持ちについて何も考えてなかったかも」

それは紛れもなくあたしの隣に座る川下の声だった。
だからあたしも驚いて川下に問い掛ける。

でも川下の顔は見れない・・・・。

「・・・・なんでそう思ったの?」

川下は前を向いたまま答える。
でも表情はどこか悲しげな表情。

「小坂から聞いた。アンタが『ただただ不器用な人間』だって。友達想いのすごい良い奴だって」

「意味がわからないのですけど?」

「だよね。私も意味わからなかったよ」

「は?」

コイツはさっきから何を言って、何を伝えたいのだろう?

そんなことを少し考えていたあたしだけど、次の川下の言葉に自分の耳を疑った。

まだ花音にしか言っていない本当の北條燐の正体。

「施設内でいじめにあっているんでしょ?アンタも」

「・・・・花音から聞いたの?」

「うん。悪いとは思っている」

川下はそう言うと同時に暗い顔で下を向いた。
私に気を使って、『聞いてはダメな内容』だと感じたからだろうか?

さっき花音も言葉を濁してくれたのに・・・・。

その時、ようやくジェットコースターも動き出して、最初のレールを上っていく。
まるで太陽に近付いているみたい。

そしてこんな状況でも、川下は話を続ける。
あたしの知られたくない過去を掘り返してくる・・・・。

「その『いじめ』ってさ、同じ施設の子が元々いじめられていたから、それをアンタが救ったんでしょ?それでその子の変わりにアンタがいじめられるようになったんでしょ?」

川下は一度あたしの表情を確認すると続ける。
「私その話を聞いて、ホントに驚いたよ。いつも空ちゃんや私をいじめていたアンタが、実は『いじめを許さないやつ』だったって。本当に驚いた」

「へぇ・・・・だから?」

かなり意地悪な言葉を返したけど、何故か川下は笑った。

そして川下も意地悪な言葉を返してくる。

「別に特に何もない」

「は?」

そこまで話して結論は特にない?
ホント、コイツは何考えているんだろう。

何を私に伝えたかったのだろう?

あたしは頭を抱えた。
ちょっと時間の無駄だったと思ったから。

あと考え過ぎで頭が痛い・・・・。

でも川下の話はまた終わらないみたい。

川下の話はただの前置きだと、川下海と言う女が嫌いなあたしはまだ気付かない・・・・・。

「でもさ、アンタを悪い奴とは思わなくなったよ。『本当はスッゴク根のいい奴なんじゃないかな?』って!」

・・・・・・。

本当に『いつも明るく、調子の狂わされる奴』だとあたしは思う。
『空もこんな奴に付き纏われて大変だった』と思ったから、あたしは投げやりに言葉を返す。

「それで?いい奴だからあたしに謝罪してほしいの?」

「違うそうじゃない!私の話はしていない!」

「じゃなんだよ」

そろそろジェットコースターも頂上。
あと少しで下り始めて、楽しい時間が始まる。

二時間の待ち時間を忘れさせてくれる最高の時間がやって来る。

なのに、川下のせいでジェットコースターに集中出来ない。

相変わらず意味のわからない事を言ってくる。