食事後、海ちゃんは笑顔で帰っていった。
お父さんが『家まで送る』と言ったが、海ちゃんはそれを拒んだ。

どうやらお寿司屋さんから歩いてすぐの場所に、海ちゃんの家があるらしい。
先程までいた夫婦のお客さんも、いつの間にか帰っていた。

店内にはお客さんは一人もいない。

だから店内に残されたのは、私とお父さんとお弟子さんの誠也さんだけ。

時間もいつの間にか午後十時。

・・・・・・・。

そして海ちゃんを見送ったお父さんは再び板場に立つことなく、何故だか深刻そうな表情でカウンター席に腰を下ろした。

同時に意味深な言葉を呟く。

「空。話がある」

一瞬ピクリと体を反応させた私。

そういえば『帰るの遅くなったこと』に関して説教がまだだったと私は思い出す。
これから怒られるんだろうか。

私はゆっくり時間を掛けながら、お父さんの隣のカウンター席に座った。
真剣な表情だけどどこか悲しげな表情、不安な表情にも見せるお父さんの伺いながら私は構える。

大好きなお父さんのお寿司も食べられたから、『どんな説教も受け入れてやる』と思って心構えをしていたのに。

「お前、学校でいじめられているんだって?」

その一番触れたくないお父さんの言葉に、私は一瞬で動揺する。

そして全力で否定する。
「そ、そんなことないよ!北條さんと小坂さんとは仲良くしているし。ありえないって!」

「その北條と小坂にいじめられているんだろ?」

いじめられている相手まで当てられて、私は言葉を失った。

と言うかお父さん、さっきの言葉は何?

『お前、友達少ないからよ。お前の友達と言ったらあのヤンキー娘くらいだろ?北條と小坂だっけ。最近見てないけどアイツらも元気してるのか?』って。

・・・・・・・。

もしかして私を試していたの?
だとしたらなんで?

意味がわからない。

そんな意味のわからないお父さんに、今度は私が問い掛ける。

「どうして知っているの?武瑠から聞いたの?」

「担任の松井先生が話してくれた」

意外な名前に私は少し驚いた。

「そう、なんだ。松井先生、知っていたんだ」

いや。
少し驚いたと言うより、正直言ってかなり驚いた。

私の担任の先生が『クラス内のいじめ』について知っていることに。

だって松井先生、いつも知らない顔してホームルームを行っているのに。

・・・・・。

なんかズルいな、それ。

松井先生も何がしたいのだろう。