「仲いいんですね」

川下さんの言葉にお父さんは笑う。

「親としてこんな反抗期な娘を持つと楽しいぞ。『今日はどんなことをして機嫌取ってやろうか?』って考えるだけで幸せだしよ」

お父さんの言葉に、思わず私の口から本音が溢れ落ちる。

「気持ち悪」

「ほら反抗期。昔は可愛いだけが取り柄だったのによ」

『だけ』と言う言葉に私は腹が立ったが、これ以上喋ると『お父さんの思惑通り』になると感じた私は何も言い返さなかった。

お父さん、性格悪いし。
いっつも私をからかってくるし・・・・。

そんなお父さんは、突然真剣な眼差しに変わる。
まるで、『ここからが本題だ』とでも言うように

「んで、海ちゃんはどうしてあんな目に?」

川下さんは戸惑っていた。
でも少し間を置くと、先程の出来事を悔しそうな表情と共に教えてくれる。

「アイツら、あの公園に住む猫をいじめていたから。石とか投げたりして、公園から追い出そうとしていたし。だから私、それが許せなくて。私自身猫が大好きだし。よくあの公園で孝太く・・・友達と一緒に、猫とよく遊んでいるし」

「ほう。それで止めようとあんな目に?」

「はい」

「なるほど、な。確かにいじめはよくねぇな。相手が猫しても人にしても、絶対にダメな行為だ。最近はいじめ現場を見てみぬふりする人も多いからな」

お父さんは私達に笑顔を見せると続ける。

「でもお前らは違う。逃げずにあの男達と戦った。『負ける』と分かっていても、『助けよう』と思った。それだけで助けられた相手は凄く嬉しい気持ちになるんだぜ」

褒められているはずのお父さんの優しい言葉。
なのに川下さんはどんどん表情が暗くなってしまった。

まあでも、私がどうこういうのも変だけど、仕方ないよね。実
際に私達のクラスでいじめが起きているし。

自分が言うのは変だけど、誰一人と『私を助けよう』とか考える人はいないし。
私も今のお父さんの言葉を聞いて、北條さんと小坂さんを見捨てた日のことを思い出したから、胸が苦しくなったし。

そうやって無意識に暗い顔を見せてしまう私達の前に、お父さんは大きなお皿に乗せられた握り寿司を置いてくれた。

マグロやハマチに私の大好きな甘エビなど、全部で十種類のお寿司が二貫ずつ盛られたお皿が目の前に置かれた。

「さあさあ、たくさん食えよ。おかわりも言ってくれたらまだまだ握るからよ」

そう言ったお父さんはまた私達に笑ってくれた。
本当に、お父さんはいつも『私の味方』だと改めて思う。

私達は、そのお皿を見て二人顔を合わせて苦笑い。
言葉は出てこないけど、その苦笑いで何か一つ会話が出来た気がした。

心が通じた気がした。

そしてお寿司が大好きだと言う川下さんと仲良く、お父さんが握ってくれたお寿司を食べた。
どれを食べても本当に美味しいし、追加のお寿司も一杯食べてお腹いっぱい。