花火は夜の八時まで。
今はまだ七時半だから時間は沢山あるし、こんな時間に帰ろうとする人はあまりいない。

みんな夜空に打ち上げられる秋の花火に夢中だ。
子供のような眼差しで、同じ方向を見つめる人達。

そんな中、私は立ち上がった。

花火を見つめる三人に、『らしくない笑み』を見せながら・・・。

「ちょっとトイレ行ってきます」

「一緒に行こうか?」

「大丈夫です」

私はそう言って、真奈美さんの言葉をすぐに否定した。
そして無理矢理笑顔を作ると、私は三人の元から離れた。

下を向きながら、再び人混みの中へ戻っていく私。
『やっぱり人混みの中はやっぱり気分が悪くなる』と感じながら、私は歩いていく。

最近感じる妙な気持ちに押し潰されそうになりながらも、前に進んでいく・・・・・。

そして向かったのはトイレではなく、今では廃ビルとなった大きな建物だ。
誰一人いない、明かりのない不気味な真っ暗な廃ビル。

この廃ビルも、学校の道場同様に近いうちに取り壊し予定のようだ。
一応正面の入り口の鍵は掛かっているけど、窓ガラスが割れているから簡単に中に入ることが出来る。

まあ、もちろん勝手に入っちゃだめなんだけどね。
見つかったら怒られるし、何より立ち入り禁止の貼り紙が貼ってあったし。

でも『今の私にはこの廃ビルでやることがあるから大丈夫』と勝手に解釈して、 私は廃ビルの中に入っていく。

そしてゆっくり静かに、外で明るく弾ける花火の明かりを頼りに、階段を上ってこのビルの屋上へ向かって行った。

『意外と花火の光って明るいんだな』って感じながら。
瓦礫だけが残ったビルの内部を花火が一瞬だけ照らしてくれる。

そしてそれはまるで、『闇に染まった真っ黒な私の心』を照らしてくれる光みたいだ。

私を元気付けてくれる真奈美さんや海ちゃんに孝太くん達みたい。

・・・・・。

まあでも、『今さら』って感じだけどね。

みんなと会うことはもうないだろうと思うし。

何階建ての建物かは知らないけど、屋上に着いた私は多少息が切れていた。
身体も少し暑い。

それに最近運動なんてしてないし、ずっと部屋に引きこもっていたから凄くしんどい。
何日ぶりの運動だろうか?

何より『頑張る』って何だかもうしんどい。

・・・・・・。

でもあと少しでこのしんどい気持ちにも別れを告げれる。
あと少しで、楽しくない私の人生も終わるんだ。

私ももう少しで、お母さんやお父さんに武瑠の元へ行ける。

また久し振りに家族に会える。

・・・・・・。