「お前がいじめられるようになった時に、すぐに俺達が北條らを止めればこんなことにはならなかった。『自分達は関係ない』と、あの時思ったからこんなことになってしまった。あの時俺達が北條らに『止めろ』と一言言えば、何もかも丸く収まった話だ。別にお前一人のせいじゃない。だからもういい加減、自分一人を責めるのはやめてくれ。お前のその言葉を聞くと、俺達胸が苦しくなるんだ。お前を救えなかった『罪悪感』が生まれるんだ」

一度も私から目を逸らさずに、力強い眼差しで訴える孝太くん。

でも辛そうに、時より潤んだ彼の瞳が印象的だった。
私と同じで、孝太くんも辛いのだろう。

それに友達である海ちゃんや私がこんなことになっているもんね。
孝太くん、凄く優しい友達想いの男の子だし、いつも私達を支えてくれるし。

そんな孝太くんは直後、恥ずかしそうに小さく笑った。
私から一瞬目をそらす。

「って悪いな、こんなこと言って」
そしてそう言った孝太くんはまた真剣な表情に戻る。

私の瞳を見つめる。

「でもこれだけは分かってほしい。前までは俺と海もお前のことを見て可哀想な奴だとは確かに思っていたけど、今は違う。『大切なダチ』だと俺は思っている。都合の良い奴にしか思えないかもしれないけど、間違いなく俺と海はお前の味方だ。もちろん真奈美さんも誠也さんもな。お前を全力で守りたいと俺は思っている」

その孝太くんの姿はまるで、私と海ちゃんの『正義のヒーロー』みたいだと私は思った。
だって、孝太くんはこんなことを笑顔で言ってくれるんだ。
すごく嬉しい私への言葉。

・・・・・。

いや、もうヒーローだよね。
ひとりぼっちの私に手を差し出してくれるだけで、充分私のヒーローだよ。

「おーい!孝太くん!空ちゃん!遅いよ置いてくよ!」

海ちゃんのその声に振り返ってみると、私と孝太くんはいつの間にか先を行く海ちゃんや真奈美さんと距離が開いていた。
急がないと、真奈美さんにまたからかわれるかも。

流石にもう勘弁してほしい・・・・。

「急ごうぜ。いつの間にか差が開いてしまったし」

「うん」

私は孝太くんの言葉に小さく頷くと、二人の元へ向かった。
走りたいけど、慣れない下駄じゃ転んで浴衣が汚れるのが多分オチ。

だから小走りで向かう私達。
孝太くんも私のぎこちない歩幅に合わせてくれる。

そして二人の元へ向かう間も、孝太くんは優しい言葉で私を包んでくれる。

「まあでもとりあえず、困ったときは相談してくれ。『友達だったら何が出来る?』って俺は何度も考えたけど、やっぱり困っている友達を助けることしか出来ない。辛い時は慰めて、楽しいときは一緒に笑ったりしてよ。間違いなく、俺と海はお前の力になれるからよ」

最後に孝太くんは笑った。
大きな体に女の子を一瞬思い出させるような孝太くんの可愛らしい笑顔。

そしてその笑顔が伝染したからか、いつの間にか私も笑顔に変わっていた。
笑顔で小さく頷く私。

と言うか笑ったのって、いつ以来だろうか?