午後五時半。

真奈美さんの家で浴衣に着替えた後は、毎年人で賑わう『赤崎祭』と言う、名前の年に一度の大きな秋祭りのイベントがあるから、みんなでその会場に向かった。

と言うより私達が住む街全体がお祭りのようなもの。
もうすぐ冬だと言うのに既に街は浴衣を着た人で溢れ、たこ焼き屋さんや焼きそば屋さんなどの屋台が、お祭りの雰囲気を演出してくれている。

そして大きな舞台では各自練習したダンスや楽器を使った演奏などを披露するから、その姿はまるでこの街の文化祭みたいだ。

ここにいる大人から子供までの参加者みんな、中学生や高校生のように無邪気な笑みが溢れている。

実際に私達も会場に着くと、様々な屋台や祭りの雰囲気にみんなの笑顔が止まらないし、真奈美さんは大きな声で叫んでいる。
本当に高校生に戻ってしまったみたい真奈美さん。

「よーし、そろそろ私達も楽しみますか!今年一番の地元のお祭り、赤崎祭!」

海ちゃんも真奈美さんに続く。

「楽しむぞー!ってか秋に祭りって珍しくないですか?普通は夏ですよね?」

「確かにそうだね。でも祭りがあるんだから楽しまないと」

「ですね!」

そう言って真奈美さんと海ちゃんはお腹を空かせているのか、周囲に広がる屋台を楽しそうに見渡していた。
目的地があるのかどうかは知らないけど、先を行く真奈美さんと海ちゃんの二人。

そして私も遅れないように二人の背中を追うように歩いていくけど、『下駄』と言う履き物に苦戦して、中々早く歩けない。
と言うか私、下駄なんて履いたことないし。

何より人混みは嫌いだったから、いつもこう言うお祭りはお母さんと一緒に家に居たし。

祭りなんて行ったことがないし。
浴衣も初めて着させてもらったから、違和感を感じるし・・・・。

でも不思議な雰囲気に、私はいつの間にか場の空気に圧倒されていた。
まるで祭りと言うものに初めて来た小さな子供のように目を輝かせる。

いや、もうただの子供のような私の表情だ。
さっきまでの現実を忘れて、私は周囲の屋台を見渡す。

そんな私に孝太くんが声を掛けてくれた。
浴衣ではなく、私服姿の孝太くん。

「おう。ちょっとは元気出たか?」

私は慌てて言葉を返す。

「う、うん。まだ少しだけど」

「着替えているときは結構大きな声で嫌がっていたけど、いい表情じゃん。俺には前と変わらない気もするけど」

確かにそうかも。
真奈美さん達がいると、不思議と私も声が出るようになった。

何故だかみんなといると力が出る私。

まあ、一人ぼっちじゃ相変わらずだけど・・・・。

孝太くんは続ける。