「おぉ!おかんナイスチョイス!やっぱり空ちゃんは青が似合う」

「うん!その浴衣めちゃくちゃ可愛いです!」

真奈美さんと海ちゃんの声に、私はまたしても疑問が生まれる。

『空ちゃんは青が似合う』ってつまり・・・・。
「これ、私が着るのですか?」

『その私の言葉は愚問だ』と言うように、真奈美さんのお母さんである小太りの女性は、私に浴衣を着せてくれる。

そして私に笑顔を見せてくれる。

「ちょっとくらい遊んで楽しんできなさい。辛い時にまた元気に戻る方法は、笑うことしかないのだよ」

笑うことか・・・・。
やっぱり私って、あんまり笑わないよね。

と言うより自分から笑う方法なんて多分知らないし。
いつもみんなに笑顔にさせてもらっているだけだし・・・・・。

真奈美さんのお母さんは私の背中を押すと続ける。

「なーに。一回笑ったら、人間はずっと笑っとる。楽しかったらそのまま笑い続けたらいい。そしたら辛いこともすぐに忘れる」

確かに、笑って辛いことを忘れられたら最高だ。
嫌なことを全部上書き出来るほど笑えたら『早く死にたい』なんて思わないし。

誠也さんも私のおばあちゃんも同じようなことを言っていたし。

・・・・・・。

でも今の私にはそんなこと出来るのだろうか?

もう無理な気もするけど・・・・。

と言うか遊びにってどこに?

冬直前になんで浴衣?

ホントに意味がわからないから、また混乱する私・・・・。
そんな私を気にせず、真奈美さんのお母さんは素早い手で私に浴衣を着せてくれた。

昔から娘の真奈美さんに何度も浴衣を着せているからか、私も一瞬で着付けが終わる。

そして浴衣を着せてくれる間も、ずっと私を励ましてくれる真奈美さんのお母さん。
多分、真奈美さんから私の話を聞いているのだろう。

何だか、私のお母さんを少しだけ思い出す。

一方で、真奈美さんと海ちゃんもいつの間にか浴衣姿に変わっていた。
白の生地にアサガオの模様がある浴衣姿の真奈美さんに、大人しめの紺色の姿の海ちゃん。

そんな大人っぽい海ちゃんは早速、部屋の外で座りながら携帯ゲームで暇を潰す孝太くんの元に行くと問い掛ける。

すごく嬉しそうな海ちゃんの表情。

「じゃーん!どうよ、孝太くん」

携帯ゲームに夢中の孝太くんは一度海ちゃんの姿を確認するも、またゲームに視線を戻す。

そして曖昧に感想を答える孝太くん。

「ん?あぁ。似合ってんじゃね?」

「なんか腹立つなその反応。一発殴らせろ!」

「なんでだよ」

ため息を一つ吐いた孝太くんは、携帯ゲーム機を上着のポケットに入れると立ち上がった。
何だか少し眠そうな孝太くん。

そんな孝太くんに今度は真奈美さんが問い掛ける。

「じゃあ孝太くん、この空ちゃんの姿は?」

『空ちゃん』と言われて私と目が合う孝太くん。

でも彼は何故だかすぐに私から目を逸らした。
不思議と孝太くんの顔も赤い。

「あ、あぁ。似合ってるんじゃないっすか・・・・?」

海ちゃんの時とはまた違う曖昧な孝太くん感想に、私も顔が赤く染まる。
さっきのショートヘアの髪型を褒められた時と同じかも。

そんな私達のやり取りを見ていた海ちゃんは不満げな様子だ。
冷たい視線と共に頬を膨らませる海ちゃんは孝太くんに訴える。