真奈美さんの車に乗せられ、私は誠也さんがいると言う病院に連れてってもらった。
武瑠が生活していた、『山崎総合病院』という大きな病院。

ここに来るのは、武瑠がなくなった日以来。

その山崎総合病院についた私と真奈美さんは、真奈美さんのお兄さんである誠也さんの病室に向かった。
急ぎ足で、お兄ちゃんと会える瞬間を楽しみにする真奈美さん。

そして誠也さんがいると言う病室に辿り着くと、早速真奈美さんは叫んだ。
ノックもせず、周囲の状況を一切気にしないで子供のような真奈美さん。

「お兄!生きてるか?

その大きな声に反応したベットの上で横になる男の人は、少し呆れた表情を見せていた。
まるで『いつまでも俺の妹は元気だ』と言うような、誠也さんの表情。

「なんだ真奈美か。なんか久しぶりだな」

「それは私達のセリフ!全く、ヒヤヒヤさせやがって」

真奈美さんは一つ息を吐いた。
でもとても嬉しそうな表情も見せている。

一方の誠也さんは苦笑い。

「ゴメンゴメン、まあ帰ってきたからいいだろ?」

「まあね。でもよく分からないけど、奇跡的に後遺症はないみたいだもんね。あれだけの事故に巻き込まれて、右腕が折れただけで済むって、ホントに奇跡だよ」

「まあ、全部将大さんが俺を守ってくれたから。俺がこうして生きているのは、将大さんのおかげ」

『将大さん』と言う、私の亡きお父さんの名前を呼ぶ目の前のベットの上で横になる男の人は田中誠也さん。
お父さんが経営するお寿司屋さんの一番弟子で、私のことをからかうのが大好きな性悪お兄さん・・・・・・。

そんな誠也さんが目の前にいる。

お父さんと一緒に事故に巻き込まれたけど、一命を取り止めた私の大好きな誠也さんが目の前にいる。

・・・・・・。

でも大好きな誠也さんを目の前にしても、『素直』になれない私がいる。
今の新しい自分を見せたくない自分がいる。

そしてずっと病室の扉の影で隠れている私がいるから、誠也さんもいつもみたいに調子に乗り出す。

「んで、誰かそこにいるのか?まさか恥ずかしがり屋さんの俺のハムスターか?」

ハムスターと言う私への挑発の言葉が気になったけど、私は堪えた。
無視するかのように、私は影に隠れて黙り込む。

誠也さんにまだ姿は見せていない。