「空ちゃんの命は誰から授かったの?空ちゃんのお父さんとお母さんでしょ?」

お父さんとお母さん。
その言葉は『私の人生のキーパーソン』のように感じたから、不思議と涙が溢れる私。

だってまだ十六歳の私には、お父さんとお母さんの力があってこそ生きれていたようなものだし。
私、まだ何も出来ないからずっとお父さんとお母さんに支えられて生きてきたし・・・・・。

真奈美さんは続ける・・・・。

「もし空ちゃんがここで死んだら、一番悲しむのは空ちゃんのお母さんとお父さんだよ。武瑠くんも『空お姉ちゃんには長生きしてほしい』と思っているよ。なのに、アンタが簡単にそんなふざけた台詞を言ったらダメでしょうが」

私の後ろにいた真奈美さんはハサミを下ろすと、私の前に現れる。

そして私の頬をつまんで、無理矢理笑わせようする。
「だから、もう暗い顔は二度とすんな!と言うか、人生笑った方が楽しいでしょ?」

笑った方が楽しいか・・・・・。

そう言えばお父さんとお母さん、ずっと笑って生きていたっけ。
武瑠も自分が『余命を宣告されて死ぬ』って知っても、ずっと笑っていたし。

・・・・・・。

一方の私は全然笑えなかった。
笑ったとしても、いつも誰かに笑わせて貰っているだけ。

多分一度も自分から笑ったことは今まで一度もない。

なんでだろう。
なんで私、笑えないんだろう。

人生を楽しめないんだろう。

・・・・・・。

でも今は笑うことより頬の痛みが気になる。

真奈美さん、私の頬をお餅のように引っ張って遊んでいる。
「真奈美さん、痛いです」

「痛くしてるもん。何を今さら」

直後、真奈美さんは更に私の頬を引っ張る。

「痛い痛い!」

私がそう叫んでも、真奈美さんの耳には届かない。
笑わない私と違って、いつまでも笑って私をいじる真奈美さん。

そして真奈美さんはいつの間にかハサミを握り直して、また意味の分からないことを呟く。

「あとついでに空ちゃん、髪短い方が可愛いから切っちゃうね」

「ちょ、真奈美さん!」

ハサミを握る真奈美さんに脅える私。
また『逃げないと』って気持ちが溢れるけど・・・・・・。

「きゃあー!」

悪意の塊である真奈美さんの行動に、私の髪は地面に落ちる。
中学二年生くらいから伸ばしていたセミロングヘアーなのに、無惨にも真奈美さんに切り落とされる。

そして、私を不安にさせる一言をこの人は言ってくる。

「あっ、やべ。切りすぎた」

「なにやってるんですか!」

「大丈夫、大丈夫!私、髪切るの上手だし」

「そう言うことじゃなくて!」

「ついでに染めちゃうか」

「は?」

この人、私を何だと思っているのだろうか?
私、あなたの人形じゃないよ・・・・。

でも流石にそれは冗談みたいだ。
自分の言葉を撤回する真奈美さん。