「そうか。そうだよな。空の『たいせつなもの』だもんな」

お父さんは私の頭を撫でると、すぐにまた私を肩に乗せてくれる。

そしてこんな私に、お父さんらしく提案してくれる。

「だったら帰って手術しないとな」

「しゅしゅつ?」

「病気や怪我を直すための行為?行動?なんだ?」

手術という言葉を必死に私に教えてくれるお父さん。
七歳の娘に知恵を絞ってくれる。

でも私には今の言葉で充分だ。

希望の光を掴む言葉を聞けたから、当時の七歳の私は目を輝かせる。

「しゅしゅつをすれば、そらの『たいせつなもの』の怪我は直るの?」

お父さんは私に笑みを見せてくれる。

「ああそうだ。どんな怪我や病気でも、お医者さんにお願いしたら治してくれるよ。ウチには『茉尋先生』と言う裁縫の上手なお医者さんがいるからよ、どうにかしてくれるだろ」

茉尋(マヒロ)先生。
それはすぐに『私のお母さん』だと理解した私はようやく笑えた。

お母さん、器用だから裁縫とかスゴく上手だし。

「うん!じゃあ早くしゅしゅつして」

「おう!でもその前に風呂だ。寒い!」

そう言ってお父さんは自分の体を暖める意味で、急に走り出した。
『たいせつなもの』をしっかり握る私を肩に乗せて走ってくれたから、まるでジェットコースターのように思えてスゴく怖かったっけ。

お父さんには言ってなかったけど私、高い所が苦手なのに。

と言うかお父さん、昔からよく私を高い所に乗せてくれたり、こんな風に肩車をしてくれたっけ。

お父さんは逆に高い所が好きだったし・・・・・・・。

・・・・・・・。

うん、間違いなく私が『高所恐怖症』になったのは、お父さんのせいだ。
お陰で誠也さんにからかわれるようになったし。

・・・・・。

だったら、後でお父さんに文句言ってやる。

お父さんが目を覚ましたら、絶対に、言ってやる・・・・・・。

・・・・・・。

そしてお父さんと一緒に家に帰ったら、玄関で私達の帰りを待つお母さんに怒られた。
『夜遅くに親子揃って家出するなんて許さない』って、私と一緒にお父さんも怒られていたっけ。

お父さんはお風呂に入れず、ずっと私と一緒にお母さんに怒られて玄関で正座していたし。
体を震わせて、『寒い』とか『ごめんさい』って言っても、お母さんは許してしてくれなかったし・・・・・。

と言うか、何だかあの時のお父さんは見ていて面白かったな。
私の『たいせつなもの』を救ってくれた正義のヒーローなのに、自分自身の『たいせつなもの』に怒られているし。

翌日になったらお父さんは風邪を引いて、暫く動けなかったし。
一緒にお寿司屋を営業するおばあちゃんにも酷く怒られていたし。

何だかお父さんが『可哀想な正義のヒーロー』だと思った。

一方の私は翌日に目を覚ますと、枕の隣に手術を終えた『たいせつなもの』があった。

汚れも取れて、怪我も治って元通りになっていたハムスターのぬいぐるみがあった。

恐らく、私とお父さんを説教したお母さんが治してくれたんだろう。
破れていたハムスターの耳元には、いつの間にか小さな赤いリボンが付いているし。

ホント、大好きな私のお父さんとお母さん。

本当に大好き。

・・・・・・・。