そしてお父さんはポケットの中の財布や携帯電話を川の側に置いて避難させて、川の中に足を踏み入れて行った。
肩に乗る私をしっかり支えながら、深い川に足を入れていく。

同時にお父さんは悲鳴をあげる。

「うひゃー、冷たいな!こりゃ風邪引いてしまうな」

「お、お父さん」

「落ちるなよ。まあ落ちたとしても、俺が守るから安心して落ちてろ」

意味のわからないお父さんの声を聞きながら、私はお父さんの頭に抱き付くようにしがみついた。
お父さんの唇が一瞬で紫に変わったから、スゴく冷たいのだろう。

川の深さは、約一メートル五十センチと言ったところだろうか。
凍えるような冷たい水は、背の高いお父さんの胸元まであるほど深いし、肩に乗る私の足が微かに水に触れている。

私一人だったら確実に溺れている。

お父さんは目的地である川の中央の草木に辿り着いた。
片手で私を支えながら、もう片方の手でぬいぐるみに手を伸ばす。

そして私の『たいせつなもの』をしっかり握ってくれた。

私同様に『絶対に離すか』とでも言うように、しっかり私の『たいせつなもの』をしっかり掴みながら・・・・。

同時に唇が紫色に染まるお父さんは、震えながら私に笑顔を見せてくれる。

「よし!さあ、早く戻ろうぜ!風邪引いてしまう」

そう言ったお父さんは慌てて川を出た。
あまりの寒さに急いで川から出ようとするから、時々川の冷たい水が私の手や頬に当たったりもする。

と言うか冷た過ぎるよこの川。
まるで氷風呂みたい・・・・。

川から上がり、父さんは私を一旦下ろすと息を整える。
お父さん、ものすごく震えている。

「ほら空、これはお前のか?」

そう言ってお父さんは私の探していた『たいせつなもの』を渡してくれた。

私の家族と同じくらい『たいせつなもの』。

「うん!お父さんありがとう!・・・・でも」

その『たいせつなもの』を見ると心が痛むんでしまう私。
すぐに元気を失ってしまう・・・・・。

理由は、クリーム色のハムスターの体はスゴく汚れているし、ちょっと体が破れてしまっているから。
『たいせつなもの』が怪我しているから、私の中で申し訳ないと言う罪悪感が生まれる。

見ていて辛い。

そんな私に、お父さんは優しく提案してくれる。

「また買ってやろうか?」

でも私はすぐに首を横に振って否定した。

「嫌だ!これがいい」

「どうしてだ?」

一度お父さんの優しい表情を伺ってから、私は答える。

「お父さんに貰った誕生日プレゼントだから。『大切にする』ってそらが決めたから!」

子供らしい言い訳で、ワガママを貫く当時の私。
正直言って呆れられたり笑われたりして怖かったけど・・・・。

お父さんは、いつもワガママな私の気持ちを理解してれる。

いつも最後まで嫌な顔一つ浮かべずに、私の話を聞いてくれる。