それからもお父さんは暗闇の中に懐中電灯の光を当てて、私の『たいせつなもの』を探してくれる。
今は私がお父さんの頭を持って、自分の体を落ちないように支えているから、お父さんは両手で橋の近くを探してくれる。

そして『たいせつなもの』を探し始めて十分が経過した。
お父さんは宝探しゲームのようにずっと探してくれているけど、お父さんの肩に乗る私は正直言って若干諦めかけていた。

だって、ずっと探しても見つからないし。
もしかしたらもう私の手の届かない所に行ってしまったのかもしれないし。

何よりお父さんに迷惑かけてばっかだし。

今の私、何もしていないし。

・・・・・・。

『そろそろ家に帰りたい』と思うようになった、その時だった。

「おっ?もしかしてあれじゃないのか?」

「えっ?」

聞こえたお父さんの声に反応する私は、お父さんが光を当ててくれた場所を確認する。

ゆっくり流れる川の中、草木に引っ掛かる小さなぬいぐるみが落ちていた。
頬がピンク色に染まった、ひまわりの種を抱えるクリーム色のハムスターのぬいぐるみ。

そしてそれは私の探していた物と同じものだった。

ようやく見つけた、私の『たいせつなもの』。

「あれだ!お父さん!」

諦めていたはずなのに、私は探し物を見つけた途端にお父さんの肩の上で暴れだす。
早くその『たいせつなもの』に手を伸ばしたい私。

一方のお父さんは急に私が暴れるから、少し呆れていた。
慌てて私が落ちないように両手で支えてくれるお父さん。

「分かった分かった!俺が取りに行くから暴れるな」

取りに行く。
それはつまり、川の中に入るって意味だ。

ぬいぐるみは流れる川の中央の草木にあるから、川の中に入らないと取れない。
だから私は少し抵抗した。

『たいせつなもの』に手を伸ばしたいけど、『お父さんが濡れてしまうなら諦めようかな?』って思う変な自分もいる。

今日は凍えるような寒さで、雪も少しだけど降っているし。
もしかしたらお父さんが風邪引いちゃうかもしれないし。

「で、でも川は冷たいよ」

私の言葉にお父さんはまた笑う。

「お父さん、昔は水泳をやっていたんだ。よく海で泳いでいたからよ安心しろ。ちなみに茉尋母さんは海でナンパしたんだぜ。そしてお前が産まれただぞ」

最後の言葉の意味がイマイチ分からない当時小学一年生の私は、小さく首を傾げた。
『ナンパって何?』って思いながら。