「空、お前はいい子だ。自分で悪いと反省してるんだろ?」

「うん」

「だったらそれ、もう怒る必要なんてないだろ?『二度と家出をしない』って約束してくれたら、お父さんは何も言わないよ」

お父さんは私を肩車したまま川の麓まで歩いて行くのと同時に、言葉を続ける。

「空、お前は『たいせつなもの』を探そうとした。それがなんであれ、空にとっては『たいせつな宝物』。そりゃ大事にしないといけねぇさ。それに、もし俺の『たいせつなもの』が遠くに行ってしまったって思うと、俺もきっと黙っていられないしな」

俺の『たいせつなもの』。
そのお父さんの言葉の意味を詳しく知りたい私。

「お父さんの『たいせつなもの』ってなに?」

お父さんは笑った。
肩に乗せた私を見て優しく微笑む。

「そりゃもちろん、空と武瑠だよ。あと空の大好きな茉尋お母さんもおばあちゃんもな。『みんな俺が守る』って決めたんだからよ。もし一人でも欠けてしまったら、俺も夜遅くに家を飛び出して家族を探しているよ」

そう言ったお父さんは何かを思い出したのか、続ける。

ずっと私に見せている無邪気な子供のような笑顔を、再度私に見せてくれる。

「まるで今のお前だな。今のお父さんも同じことをしているだろ?」

その言葉を聞いて、私は『確かにそうだ』と強く感じた。

私は『たいせつなもの』である、ハムスターのぬいぐるみを探していた。
夜遅くに家を抜け出してでも探し続けた。

そしてお父さんも自分の『たいせつなもの』を探していた。
自分の娘である『美柳空(ミヤナギ ソラ)』が居なくなったから、家を飛び出して私を探してくれた。

お父さん、仕事で疲れているはずなのに。

でもそう考えたら私とお父さん、何だかそっくりだと思ったから、私は小さく頷く。

「うん」

一方のお父さんの笑みは更に深くなった。

また優しい言葉で不安な私の心をを包んでくれる。

「な?こう考えたら、『空を怒る理由』なんてないだろ?自分の心に決めた『たいせつなもの』は、しっかり守らないと。きっとぬいぐるみも、今ごろお前の事を待っているんじゃないか?」

私はまた頷いた。
お父さんの言葉通りなればいいなと、当時の私はそう感じた。