「おうおうおう!こんなところで誰か泣いていると思えば、ウチの可愛い空ちゃんじゃねぇか。ママが嫌いになって、家出でもしたか?七歳にしてもう反抗期か?えぇ?」

星の広がる夜空の下、私の大好きな声が聞こえた。
何度も聞いた、私の一番大好きな人物の声。

同時に小学一年生の私の体は軽々持ち上げられ、大好きな声の持ち主におんぶされた。
そして突然現れた私のヒーローである将大(マサヒロ)お父さんは、背中に乗せた私を見て優しく微笑む。

「よいしょっと!じゃあ空、帰ろうか?」

帰る。
そのお父さんの言葉に嫌気が差した私は、小さな声で否定する。

「嫌だ・・・」

「どうしてだ?」

私は迷いながら素直に答える。
お父さんに怒られると思いながらビクビクしながら答える。

「そら、お父さんから貰った大切なぬいぐるみ、無くしちゃった。『たいせつにする』ってお父さんと約束したのに、そらが無くしちゃったから」

「それを探そうと?」

「うん」

お父さんは少し考える仕草を見せると、私をおんぶしたまま家と真逆の方向へ歩き出す。

私の声に、力を貸してくれるお父さん・・・・。

「そうか。じゃあ一緒に探そうか?」

「えっ?」

「空にとって『たいせつなぬいぐるみ』なんだろ?だったら探さないとな」

お父さんは予め用意していたとと思われる懐中電灯をポケットから取り出して、明かりを付けながら周囲を見渡していた。

私の『たいせつなもの』を呆れた顔一つ浮かべずに探してくれる。
まるで子供の宝探しのように・・・・。

そんな子供みたいに目を輝かせるお父さんは、私に問い掛ける。

「で、どこにあるんだ?空ちゃんの『たいせつなもの』って言うのは」

またちょっとお父さんに恐れながら、私は小さな声で答える。

「わからない・・・・・。学校の道は探したけど、見つからなかった」

「そうか。だったらちょっと違うところを探してみるか」

そう言ってお父さんはここから近い橋の方に向かった。
綺麗な水が流れる、少し小さな橋。

その下には川。

・・・・・。

そういえば私、今朝この橋を渡ったっけ。
いつもの通学路は工事で通行止めだったから、遠回りして学校に向かったんだっけ。

そもそもずっと探している通学路は今日は通っていないし・・・・・・。

なんで気付かなかったんだろう。