それからも私達は楽しく話ながら食事を続ける。

私も晩御飯を誠也さんに温めてもらってから、不思議と箸が進んでいる気がするし、さっきより美味しくなった気がする。

少ししてからおばあちゃんが真奈美さんが注文した『あさりの赤だし』と『茶碗蒸し』を持ってきてくれた。
どの料理も美味しそうに平らげる真奈美さんから、笑顔が止まらない。

そしてずっと喋っているから、真奈美さんが好きだと言うレモンチューハイもこれで三杯目。
真奈美さんの顔もいつの間にか真っ赤っか。

大丈夫なんだろうか。
少し酔っているみたいにも見えるけど。

そんな真奈美さんは呟く。

「と言うかなんか私、新しいことしたいんだよね」

真奈美さんの言葉に誠也さんが反応する。

「お前の店でか?」

「うーんなんだろう。お店でもいいし、私の人生的にも?なんか新しい夢に挑戦したいって言うか」

「何するんだ?」

「それを今考え中なの。何かない?空ちゃん」

突然振られて戸惑う私。

でも一応考えてみたが、夢なんて持たない私は答えられないことに気が付く・・・・。

「えっと、特には。と言うかわからないって言うか」

曖昧な私の言葉に、真奈美さんは頬を膨らませて私を睨んでいる。
何だか肉食動物に睨まれている気分だ。

そして誠也さんも酷いことを言ってくる・・・・。

「空ちゃんに聞いてどうするんだよ。実家のハムスターに借金返済の相談しているのと同じだぞ」

「ちょ、誠也さん・・・・」

と言うかなんで私はハムスター?
一応私、人間なんですけど。

まあ私、ハムスターが好きだからいいけど。
スクールバックには、昔お父さんに買って貰った大切なハムスターのぬいぐるみがぶら下がっているし。

私の大切なものだし。

一方で真奈美さんは大笑い。

「あはは!何その例え。お兄は相変わらず性格汚いな」

「それが『田中誠也』と言う人間だから。優しい顔して、心は汚いって言うか」

「ホントお兄は汚いよね。まあ、本当はスッゴく優しいお兄ちゃんなんだけど」

「そんなことないぞ。なあ?空ちゃん」

『なんでそこで私に振るかな?』と、横目で誠也さんを少しだけ睨み付ける私。
何だか試されているみたい。

でもここは素直に答えよう。
たまには誠也さんを敵に回してみよう。

「そうですね。誠也さん、結構汚いって言うか」

誠也さんもその言葉を求めているはず。
そう確信して私は言ったのに・・・・・。

誠也さんの表情が変わる。
今まで私に見せたことない怒った顔で、誠也さんは私を見下ろす。

「おい!そんなことないだろ!謝れ」

「ご、ごめんなさい!」

誠也さんの言葉に、私は直ぐに謝ってしまった。
調子に乗って怒られて、罪悪感が心の中を駆け巡る。

でも真奈美さんと誠也さんの会話に、すぐに『罠』だと私は気が付く。
本当に性格の悪い兄妹だ。