「そうだよ。人生笑わないと楽しくないよ。何の話しをしていたのか、私にはよくわかんないけど」

部屋の入り口を振り返ると、見たことのある女の人が私に笑顔を見せていた。
黒髪のショートヘアが似合う可愛らしい見た目の女の人。

確か誠也さんの妹さん。

そんな女の人に誠也さんは驚く。

「真奈美?何でここに?」

「何でって・・・・、お兄の寿司を食べに来たのに、『仕事せずに裏方でサボっている』って将大さん聞いたから、活を入れてやろうと思ってね」

「サボるって・・・」

突然目の前に現れた目の前の女の人は、田中真奈美(タナカ マナミ)さん。
とっても明るい誠也さんの妹だ。この前、

真奈美さんのお店に行って美味しいご飯を食べさせてもらったから、私はよく覚えている。

「空ちゃん元気?私のこと覚えている?」

「は、はい。この前の真奈美さんのお店で」

「そうそう!よく覚えてるね」

真奈美さんは部屋に入ってくると、誠也さんを無理矢理立たせて部屋から追い出す。
そして誠也さんが座っていた席に座ると、真奈美さんはお客さんとして誠也さんに注文する。

「ってなわけで、今から女子トークするからお兄は何か握ってこい。スリーサイズとかいやらしい質問を空ちゃんにするから」

いやらしい質問。
その言葉に私と誠也さんは顔をしかめる。

「女子トークねぇ・・・・。ってか盛り合わせでいいか?」

「もちろん!あっ、サーモンとボタン海老は入れてね。あと茶碗蒸しにあさりの赤だし。それとレモンチューハイ」

誠也さんは苦笑いを一つ浮かべて、真奈美さんのオーダーを受理する。

「はいよ。でもお前、車で来たんじゃないのか?」

「飲むから歩いてきた。帰りはお兄の車に乗って帰る」

「酔っぱらう気満々じゃねえか。お前酒弱いくせに・・・・。ってか今日はお前の店は定休日でも、明日は営業だろ?大丈夫か?最近忙しいみたいだし」

「明日の不安を気にしていたら人生楽しくないし、今日と言う日は楽しめない。今日は今日なんだから」

「・・・・相変わらずだなお前は」

誠也さんは呆れた顔で部屋を出ていくと、お客さんである妹の真奈美さんの寿司を握りに行った。

ちょっと嬉しそうな誠也さんの横顔が見えたのは気のせいかな?
残された私は改めて目の前の女性を確認。

小柄でショートヘアの似合う真奈美さんは、今年で二十三歳のイタリアンレストランの店長さん。

この前は料理は全て真奈美さんと誠也さんのお母さんが作ってくれたけど、きっと真奈美さんも料理が上手なんだろう。

そんな真奈美さんはお兄さんである誠也さんのお寿司が待ちきれないのか、携帯電話を触りながら楽しそうに鼻歌を歌っていた。
なんの曲を歌っているのかは、私にはわからない。

そして少し時間を置いてから、真奈美さんは私を見て問い掛ける。