でも三分後、誠也さんは私のお盆を持って帰ってきた。
白い湯気が立っている味噌汁や私が一口食べた熱々のコロッケが返ってくる。

「はいお待たせ」

「あ、ありがとうございます」

「気にしない気にしない」

それとお盆には茶碗に入れられた白いご飯とがあった。
そういえば私、ご飯を盛ってない。

そしてもう一つ、湯気の立つ『茶碗蒸し』がお盆の上乗っていた。

その『茶碗蒸し』は私が大好きなこのお店の茶碗蒸で、この店の人気メニューでもある『お寿司屋の茶碗蒸し』。

多分、誠也さんが追加で作ってくれたんだろう。
茶碗蒸しはよく出るメニューだから、何個か予め作って炊飯器に入れて保温しているみたいだし。

と言うかそんなことしなくていいのに・・・・・。

そんな気遣いの上手な誠也さんに、おばあちゃんは呟く。

「相変わらず誠也は空が好きじゃな」

誠也さんは恥ずかしそうな素振りを見せずに、笑顔で答える。

「まあそうっすね。何て言うか、空ちゃんを見ていると『放っておけない』って言うか。目を離したらすぐ勝手な行動をするって言うか」

「確かにそうじゃな」

おばあちゃんは小さく笑うと腰を上げる。

そして言葉を続ける。

「んじゃ誠也、空を頼むぞ。今日の話しても聞いてやれ。ワシは戻る」

「うっす!」

今年で七十五歳になる寿司職人のおばあちゃんは、部屋から出ていった。
またお寿司を握るために板場に向かったのだろう。

そのおばあちゃんが座っていた席に今度は誠也さんが腰掛ける。
そして誠也さんもおばあちゃん同様に今日の私に違和感を感じていたのか、優しく問い掛けてくれる。

「なにかあった?今日は元気ないじゃん。また友達と遊んで来たんでしょ?」

誠也さんの言葉に、恐る恐る答える私・・・・。

「あっ、はい・・・。海ちゃんと孝太くんと遊んできました」

「学校で何かあったの?」

「えっと、その・・・・」

今日の記憶を思い出したら思わず言葉を失ったけど、私は頑張って素直に答える。

・・・・・。

「・・・・海ちゃんがいじめられていました。私のいじめに巻き込まれてしまって・・・」

誠也さんはあまり驚かず、小さく頷く。

「そっか。相手はやっぱり北條さんと小坂さん?」

「う、うん。でも今回は小坂さんは違うって言うか。北條さんだけって言うか」

「なるほどね。でも友達の海ちゃんがいじめられるようになったか。それは辛いね」

正直言って辛すぎる。

だって『私がしっかりしていないから、海ちゃんも巻き込まれた』ようなものだし。
私が海ちゃんをいじめてしまったようなものだし。

・・・・・・。

いっそうのこと、誠也さんに聞いてみよう。