お昼は学校。
夜はお父さん達がいるこのお寿司屋さん。

『なんだかいつもこの繰り返しだ』と思いながら、海ちゃん達と別れた私はお父さんの職場であるお寿司屋に入る。
表口だとお客さんと間違われるれるから、従業員が通る裏口からお店に入っていく。

今日もお店は賑わっていて満席みたいだ。
店内からは楽しそうなお客さんの声が聞こえてくる。

そんな来てくれたお客さんに、裏方でドリンクを作る誠也さん。

同時に優しい声で私に声を掛けてくれる。

「空ちゃんお帰り」

「た、ただいま。誠也さん」

誠也さんは私に笑みを見せると、出来上がったドリンクをお客さんの元へ運んだ。
『笑顔で接客する誠也さんがカッコいい』と思うってしまう私。

そんな私に、今度は『板場』ではなく火口のあるキッチンにいるお父さんが声を掛けてくれる。
先程まで水槽で泳いでいた、いきのいいアジを片手に持ちながら・・・・・。

「おう空帰ったか。今からアジを締めるけど見るか?」

アジを締める。アジを捌くって意味だ。

そしてそれは今からまな板が真っ赤に染まることを意味している。

・・・・・。

ふざけんな!

「いや!絶対にいや」

私は真っ赤な血が嫌い。
大嫌い。

見たくもない。

だから私は首を振って全力で否定したが、後ろから意地悪な誠也さんの笑った声が聞こえる。
『滑稽なお寿司屋さんの娘』を笑うだけの、意地悪な誠也さんの言葉・・・・・。

「あはは!寿司屋の娘なのに血が苦手とか、もうお笑いだね」

「うるさいです!」

馬鹿にしやがって。
人間、苦手なものは一つや二つはあるはずなのに・・・・。

サイテー。
誠也さんのばか。

そんなばか誠也さんは私の肩を軽く叩くと、次のドリンクを作っていた。
ジョッキにビールを入れたり素早い動きでカクテルを作ったりして、すぐにお客さんの元へ運ぶ。

なんだか忙しそうだ。
私も手伝おうかな。

「お父さん、手伝った方がいい?」

「いや、大丈夫だ。ババアもいるからよ」

私の声に、いつの間にかアジを素早く捌いているお父さんはすぐに答えてくれた。

と言うか、まな板はアジの血で真っ赤っか。
あっという間に『開きアジ』にするお父さんは見ていてカッコいいと思うけど、今のお父さんは見たくない・・・・・。