「あっ!空ちゃんいた!」

私は声のする背後を振り替えると、大きなぬいぐるみを両手に抱えた海ちゃんがいた。
孝太くんも海ちゃんの後を追っている。

どうやら二人とも、目的のキャラクターのぬいぐるみが取れたみたい。

と言うか、勝手に消えてしまったから二人に謝らないと・・・・。

「ご、ごめん。勝手に変なところに行っちゃってた」

慌てて謝る私に、海ちゃんは苦笑いを浮かべて答える。

「あー、別にそう言うわけじゃないから。怒ってもないし。ってあの人って」

あの人。
海ちゃんの視線は、ダンスを見せてくれた彼女の横顔だった。

次の予定があるのか、ゲームセンターを後にする私のお母さんにそっくりな彼女。

と言うか、彼女の情報が知りたい。

「海ちゃんは、あの人のことを知っているの?」

「うん。詳しくはまだ知らないけど、ネットで有名な躍り手さんだと思うよ。名前は確か『チロル』だったような」

彼女の名前に違和感を感じた孝太くんは少し首を傾げた。

「ちろる?変な名前だな。チョコか?」

「まあネットで有名な人って、変わった名前人が多いからね」

へえ、チロルって言うんだ・・・・後でネットで調べてみよう。
躍り手って言葉はよく知らないけど、他にも色んな曲に合わせて踊っているのかな?

そのチロルと呼ばれる女性を改めて確認すると、近くの階段を下りていく姿が見えた。携帯電話を耳に当てて、誰かと連絡している。

一方で海ちゃんは大きなぬいぐるみを抱えながら頬をムッと膨らませた。
どうやらお腹が限界らしい。

「孝太くんお腹すいた!たこ焼き食べたいから奢って!」

孝太くんは顔を引きずって否定する。

「嫌だ。俺は腹減ってねぇし」

「じゃあこんな奴放っておいて空ちゃん行こ!」

その言葉と同時に、私は急に海ちゃんに腕を掴まれる。もちろん私は戸惑う・・・・。

「えっ?あ、うん」

そして孝太くんは呆れた声で海ちゃんに忠告する。

「自分の金で食えよ」

「わかってるって。空ちゃんにはそんなセコイことしないって」

「あのな・・・・」

孝太くんだけには厳しい海ちゃん。
同時に孝太くんに向かって下を出して挑発する。

やっぱりカップルにしか見えない・・・・・。

こうして私は海ちゃんに背中を押されながら、昨日と同じたこ焼き屋さんに向かった。

たこ焼き屋さんの店長さんも私の事を覚えてくれているのか、人見知りの私に向かって『また来てくれたね』って言ってくれた。

最近色んな人に囲まれているなって思いながら、私達はまたたこ焼き屋さんの店内で楽しく過ごしていく。

嫌なこともあるけど、楽しいことも同じくらいあるなって、思いながら・・・・。