「くっそ!やっぱり取れねぇな。アーム弱すぎじゃねぇの?」

「孝太くんは雑だからね。次、私がやる」

「やってみろ。どうせ金なくなって後で泣くパターンだぜ」

「うるさいな!やってみないとわからないじゃんか!」

海ちゃんと孝太くんは交代しながら、大きなぬいぐるみを取るためにクレーンを動かす。
細かい操作にかなり苦戦しているみたい。

そんなやり取りを交わす二人を見つめていたら、ふと遠くからポップな音楽が聞こえてきた。
ちょっと変わった、聞き覚えのある懐かしいメロディー。

私はその音楽が気になったから、無言で少し二人から離れる。
どうやら近くの音楽ゲームコーナーみたいだ。

その音楽ゲームコーナーの一角、楽しそうに音楽ゲームをプレイする同じ学校の生徒達の姿があった。
音楽に合わせてリズムよくボタンを押すゲーム。

でもこのゲーム機からじゃない。
ここからはボタンを押す音しか聞こえないし。

私はその後も音楽ゲームのコーナーを回り続けた。
ぐるぐると、まるでゲームセンターを巡回している管理人みたいに歩いていく。

ちなみに私がこの音楽を気にしているのは、不思議と『お母さん』を思い出したから。
このポップな曲を聞いてから、私の脳裏からお母さん顔が離れない。

少し歩いてからその音楽が流れるゲーム機を発見した。
どうやら、リズムに合わせて踊るゲームみたい。

そのゲーム機には一人の女性が踊っていた。
歩いている人の足を止めるくらい、華麗なダンスに上手なダンスを見せてくれる人。

その人は大きな瞳に、明るい茶髪のショートヘアが似合う細身の若い女性だった。
とても『綺麗』と言う言葉が似合う人だ。

それと初めて見るのに、どこかで見たことのあるような人だ。
不思議とその記憶は新しい。

彼女が踊っている曲自体は私は知らない。
どんなジャンルの曲か私には分からない。

でも昔、『お母さんが何度か聞いていた曲』だと私はようやく思い出す。
明るい声の女性が歌うポップな曲。

その曲に合わせて踊る彼女は、最後にポーズを決めるとこの曲を締めた。
最後にこのゲームの採点があるみたいだけどそれを気にせずに、荷物入れに入れていたリュックサックを背負う彼女。なんだかカッコいい。

圧巻のダンスを見せてくれた彼女には、いつの間にかたくさんの視線が集まっていた。

有名人なのだろうか?
黄色い声援も飛んでいる。

まあ私自身は見た事ないし、知らない人だけど・・・・。

そんな彼女と目が合う私。沢山の視線の中、目の前の彼女は何故だか私だけを見つめている。

そして私を見て小さく笑った。
『ちょっとだけ亡くなった私のお母さんがよく見せてくれた笑顔に似ているな』と感じた私。

・・・・・・。

と言うか亡くなったお母さんにそっくり。

・・・・なんで?

この人、誰なんなんだろう。