「武瑠は、今どんな気持ち?」

こんなことを武瑠に聞くのは、どうかと私も思う。
今の武瑠は私より辛いはずだし。

私以上に辛い思いをしているはずだし。

でも少しでいいから、『ダメなお姉ちゃん』を慰めてほしい。
今の私には武瑠が必要なんだ。

ちょっと私も限界を迎えているし、正直言って今が辛過ぎるし・・・・・。

一方の武瑠はまた笑った。
さっきと変わらない、小学生の無邪気な笑顔。

「姉ちゃんが一緒だから嬉しいよ。オレ、凄く幸せだし」

武瑠は少し間を置くと続ける。

「そう言う姉ちゃんはどうなんだよ?幸せなの?」

『幸せ』と言う言葉が心に引っ掛かったが、私は答える。

「あー、うん。武瑠の顔が見れて幸せだよ。ずっと一緒にいたいくらしいだし」

武瑠には、『今の私の現状』について話していない。
理由は武瑠の辛い顔が見たくないから。

『お姉ちゃんが学校でいじめられている』って知ったら、絶対に武瑠は怒って悲しむと思ったから。
武瑠には最後までずっと笑っていて欲しいし。

でも武瑠、昔から頭がいい。
私の『秘密の心の扉』を簡単にこじ開けてくる。

「オレが死んだら?」

武瑠の意地悪な質問に、私は少し動揺しながら答える。

「そ、そりゃ悲しいよ。武瑠なしじゃ私、正直生きていけない」

「なんで?」

言葉に詰まった私だけど、なんとか言葉を組み替える。

「なんでって、武瑠のことが好きだからに決まっているんじゃん。大切な弟が死んじゃったら、悲しんじゃうじゃん。私の味方なんだし」

「お姉ちゃん友達は?ホージョウとコサカだっけ?そいつらがいつも一緒にいるじゃん。オレが死んでも、お姉ちゃんには友達がいるじゃん」

ホージョウとコサカ。
北條さんと小坂さんのことだ。

何度か武瑠に話したことがあるから、武瑠もその名前を知っている。

知っているからそこ、私の声は震えてしまう・・・・・。

「ほ、北條さんと小坂さんは、仲良くしている、よ。相変わらず仲良し・・・・」

二人のことを話すと同時に、今日の出来事が脳裏に甦った。
辛過ぎる今日一日の学校の出来事が再び私を襲う・・・・・。

登校したら、私の席を窓から落とされたり、お昼休みにはお父さんが作ってくれたお弁当を捨てられたり。

あと体育のバスケットボールでは、チームの北條さんに必要以上にパスを渡されたり。まるでドッチボールのように、私が受け取れないパスばかりしてくるし。

私の手や体、少しアザになっているし。

それと体育の後は、『チームが負けた罰』として、ホースで水を掛けられた。
鞄に入っている私の体操服は実はまだ少し濡れている。

だから私、辛くて自然と声が暗くなって、表情も暗くってしまう。
本当は、武瑠を勇気付けようとここに来たのに。

なんで私、こんな顔を見せているんだろう。

やっぱり情けないよね私・・・・・・。

・・・・・。