「俺んち家、女しかいねえからよ。『阿婆擦れ』みたいな姉ちゃんが三人も。これが本当にウザくて仕方ない」

『あばずれ』って何だろう?後で調べてみよう・・・・。

「それで昔はその姉ちゃん達の服ばっか着せられたんだ。顔も姉ちゃん達より可愛かったらしいから、ある意味人形状態。男の俺を姉ちゃん達が取り合っていたって言うか・・・・。だからその姉ちゃん達に『復讐』しようと俺は男らしく筋トレとかして、体を育てあげたって訳だ。漫画みたいな世界だろ」

確かに『漫画みたいな世界』だと私は改めて思う。
同時に私は戸惑いながら頷く。

「う、うん。でもそれが海ちゃんとどう関係あるの?」

孝太くんは笑う。
と言うより笑って誤魔化す。

「まあそれは半分ジョーダンだ。ジョーダン。本当のこと言うと、女みたいな俺をいじめる奴等から海が救ってくれたんだ。海のやつ、男の三人相手の殴り合いの喧嘩までして、俺を助けてくれたんだ。そんな俺より男らしい海に惚れてしまったって言うか、なんつうか、告白したって言うか・・・・・」

告白?

・・・・・え?

「告白、したの?」

「まあな。もうかなり前の話だけど」

孝太くんはまた笑顔で誤魔化しながら、自身の辛い過去を話してくれる。

「でもフラれた。『孝太くんとは友達でいたい』ってさ。『私、大きな体の男らしい人が好き』って言う言葉付きで」

「もしかして、そこから体を鍛えたの?」

私の言葉に孝太くんは照れ臭そうに頷く。

「ま、まあな。海に好かれようと、頑張って男らしくなろうと決めたんだ。毎日筋トレとか走ったりして体を鍛えた。身長は元々低かったけど、不思議とどんどん成長していい感じの体格になったし。髪も短く切ったし。まあさっきは『姉ちゃん達に復讐するため二体を鍛えた』って言ったけど、本当の理由は海に認めてもらうため。恥ずかしいから海には言うなよ・・・・・」

孝太くんの言葉を聞いて、『人生を変えると言うのは、これほど行動を起こした人間の事を言うのか?』と思った。
私、武瑠が亡くなって海ちゃんがいじめられるようになったのに、何もしていない。

誠也さんやお父さんにも優しい言葉を貰っているのに。
現状が嫌なら、もっと足掻かないといけないのに・・・・・。

そんなことを考える私を気にせず孝太くんは続ける。

「だから今度こそは海に告白したらオッケー貰えるんじゃないか?って思ったけど、その前にやることがあるみたいだな」

突然目の前の生徒指導室の扉が開いた。
私はすぐに確認すると、そこには私達の姿を見て驚いている海ちゃんの姿。

「あれ?孝太くんに空ちゃん。どうしたの?」

孝太くんは不満げな顔で答える。

「お前を待っていたのに、その台詞はないだろ?」

「ごめんごめん。冗談だよジョーダン」

待ち人も来たから、軽快な動きで立ち上がる孝太くん。
その彼の姿を見て、私もゆっくり立ち上がる。

念のために制服のスカートを払う私。

そして孝太くんは私達に笑顔を見せてくれた。
さっきの写真のせいか、少し『可愛い』と思うようになってしまった孝太くんの笑顔。