私が向かったのは、学校から少し離れた『山崎総合病院』と言う、様々な医療機関が揃った大きな病院だ。
ここに来ない日は一度もない。

その病院に着いた私は、すぐに入院している患者のいるフロアへ向かった。
エレベーターに乗って、目的地である西棟四階のフロアに急ぎ足で向かう。

そして『美柳武瑠』と書かれた病室に、私はノックもせずに病室の扉を開けた。

『武瑠に早く会いたい』と言う気持ちを膨らませながら、笑顔で病室に入っていく『美柳家の長女』の私。

病室のベットの上には、ゲーム機で遊ぶ私の弟である武瑠の姿があった。
彼はゲームに夢中なのか、私の存在に気が付いていない。

そんな呑気な武瑠に、私は声を掛ける。
私は自分の存在を知らせる。

「武瑠。ただいま」

武瑠はすぐに私の存在に気がついてくれた。
同時に私に笑顔を見せてくれる。

「姉ちゃん!おかえり!」

私は自分の家のように鞄を地面に置くと、ベットの横にある椅子に腰掛けた。

そして笑顔を見せる武瑠の表情を再度確認する。

「またゲームばっかりして。今日の検査はどうだったの?」

私の言葉に、武瑠は少し間を置いてから答える。

「あー、うん。よくはなっているってさ」

「そうなんだ。よかった」

武瑠の言葉を聞いて安心した私、は武瑠に向けて笑みを溢す。
自然と笑顔になる。

学校にいるときと全然違う表情を見せる私・・・・・。

美柳武瑠(ミヤナギ タケル)。
ゲームや漫画が大好きな、小学生三年生の男の子。

正義感の強い、私の可愛い弟。

そして医師から『余命一ヶ月』と宣告されても、笑顔を絶やさない強い男の子・・・・。

今年九歳の誕生日を迎えた武瑠は『末期のガン』と宣告された。
ガンの進行はかなり進んで、余命が延びることはないらしい。

抗がん剤治療の副作用で武瑠の髪は抜け落ち、武瑠は常にニット帽を被っている。
殆ど自分で歩くことも起き上がることも出来ず、 誰かの補助なしでは歩けない状態だ。

指先だけが少し動く程度らしい。

でも武瑠、笑顔だけは絶やさなかった。
どんなに辛くても、私を見ると笑ってくれた。

元気のないお姉ちゃんを励まそうとしてくれる、『頼りになる弟』だといつも思わされる。

本当は私が武瑠を笑顔にさせなきゃいけないのに。

そんな武瑠に情けないお姉ちゃんの私は問い掛ける。
今の武瑠に聞きたい気持ちがある。