(承) 学生時代 (3) 学祭参加
『 華麗なる。
リズミカルな。
心浮きたつような…
高齢者は、懐かしくて!
思わず、踊り出すような…
賑やかなメロディラインが。
構内に響き渡った。
同時に。
数十人が。
奔りだした…
《 下駄 》で。 』
当時の学内誌はこう語る。
それはスキップ数回を重ねて大学院の最終過程に至り、
卒業を控えた弱冠十五歳のトキが。
それまでは他者の企画の手伝いや。
所属するゼミの一員としての参加ばかりだった学祭に。
初めて。
自分自身で企画立案・設計作成した『発明品』を引っ提げて。
その『商品』の『発表の場』として学祭を利用した…
記念すべき、日であった。
*
デモンストレーションは学園内の複数個所で。
『同時多発ゲリラ演武』的に行なわれた。
(実際には、周到に計算され用意され、きちんと申請し許可された、
『連動イベント』だったのだが…)
ある廊下では。
突如として天井から人が降った。
ニンジャの装束をしていた。
通りすがりの女性が悲鳴をあげた。
と見せて。
突如として一般客風の衣装を脱ぎ捨てて…『変身!』した…!?
「きさま奇襲とは卑怯なり!」
「勝ったものの勝ちよ!」
…は?
なんだなんだ…と。
本当に通りすがっただけの一般客や学生たちは、眼を点にした。
短い、大立ち回り。
剣戟の効果音と、繰り出される美女の生脚まわし蹴りッ!
…ぉおッ!
と歓声と注目が集まる。
と。
「…くッ! 逃げるが勝ちか!」
「きさまどこまで卑怯なんだッ!」
逃げ出す奇襲忍者と、追いすがる『傾奇装束』の美女剣士。
…下駄。と見えていた二人の足元が。
突如として、変化した。
カチッという軽快な音とともに…
高速駆動のインライン・ローラースケートに、
…化けた?
…のである…!
なめらかに高速で移動しながらの大立ち回りは、あっという間に遠ざかり。
次には、中庭で騒ぎが展開された。
*
複数の…時代めかしたキャラクター的な衣装の…
剣士だの野盗だの侍だの、
忍者だのクノイチだの、
妖術使いだの?
風の連中が…
音も高く『下駄』踏み鳴らして現われ…
歌舞伎風に、大見えを切り…
一瞬で。
『下駄』が!
色鮮やかな…
ちょっと変わった形の…
インライン・ローラースケートに!
変身して…
高速移動で…
闘いながら…
さまざまな『ローラー技』を披露し!
寸劇?の終わりと同時に。
ぼーぜん…としている観客の前で。
ぴたり。と。
停まると同時に…
また、『下駄』に戻る…
総員、観客に礼をして、賑やかに『下駄』を踏み鳴らして…
退場。
そして空中や壁に。
簡潔明瞭にして購買意欲をそそる!
商品説明と。
次の演武の時間と場所が示されて…
その場は終わる。
あまりの格好良さに!
学内は、騒然とした。
「次どこ? 次!」と。
場所を求めて移動する人群れのあまりの多さと。
興奮のあまり、非常識にして無作法なほどの、急行ぐあいに。
自分たちの展示や興業イベントが邪魔をされたと。
複数の苦情さえ…来た。
*
商品名は、『 下駄 無礼弩 』(GET_A_BLADE!)
トキが主導でプロの靴メーカー担当者と、協同研究の末。
はじめから『商品化』を目的として開発された。
最初の『発明品』である。
普段は。
普通の『洋靴』の下に。
日本の伝統的な『下駄』の二枚歯がにょきっと生えている…
だけの『変な履物』のように、
見える。
それはそれなりに新規で面白いし。
歩いてみると車輪の収納スペースを兼ねているバネ状構造の。
反発力のおかげで、履き心地は良いし、速足で歩ける。
そして。
音声登録して特定の『呪文』を唱えるか。
両足を揃えて横にガンっと打ち付ける動作で、
スイッチを押すと。
横向きに二枚並んだ『下駄歯』と見せかけた部分が。
縦に一列の『インライン・ローラー』に変化する。
(さらには。横向き二枚歯のままローラーにして。
『横に滑る!』という裏技まで、…ある!)
利用し終わったら、どちらかのつま先で、反対側のカカトを蹴るか。
『おうちが一番いい!』というデフォルト呪文を唱えて。
カカトを三回鳴らすと。
ちょっと背が高くなるだけの『下駄』に戻して…
普通に?
歩ける。
広大な大学構内の。
次の講義に遅れそう!となるたびに。
必死の駆け足移動!という手合いに。
「一足いかがですか~?」というのが、売りだ。
むろん、通勤通学や日頃のジョギング代わりにと。
利用のしかたは色々提案できた。
値段も手ごろだ。
お洒落なデザインを取り揃えて。
サイズ展開も色々と。
多めに用意していたので。
初期製作分の3,000足は、ほぼ一瞬で!
売り切れた。
*
追加に次ぐ追加生産で。
製造委託先の提携メーカーは。
悲鳴を上げつつ。
半年で売り上げと社員数を。
数倍に増やした。
*
ただし。
その後一年を待たずして、大学当局と、行政機関によって正式に。
『公道および一般道での使用禁止!』通達が、出された。
演武のお手本のプロのスケーターやらスタントマンやらの、人々が。
あまりに華麗!かつ、滑らかで、易々と…動き回っていたので!
いきなり初心者が真似をしようとして、
事故や怪我人が…
相次いだ、ためである…。
(トキらは呼び出されて警察署で説教を喰らった。)
その後は『スポーツ用品』として。
一定の初心者安全教習を受けた上で。
専用の競技場または認定遊技場でだけ、使える。
危険商品ということになったが。
奔りまわる爽快さと、
演武の寸劇仕立ての脚本の数々の…
面白さ。
チーム対抗の勝ち抜きゲーム試合が企画されるなどして…
根強い人気を誇る。
*
これが。
後に『トキのデビュー戦!』と呼ばれた、『剣戟戦!』の概要である。