(結) 黄金時代 (3) 衆生済度


 まず緊急の課題とされたのは海洋漂泊難民だった。

 度重なる津波と。
 全球高熱化と氷河と両極大陸氷山の溶融による、
 海面上昇で。
 住処も国土自体すらも失い。

 人ひとりの肩幅もないような木造小舟や。
 ドラム缶で組んだ急造イカダで。

 救助されるアテもまったく無いままに…
 漁獲を雨水だけを唯一の頼りに…

 長期間、海原を漂流していた民に。

 まずは、『助けに来たんだ。海賊じゃないから!』と。
 意思疎通を図るための、海域民族語の話せる通訳探しから、始まった。

 難航した。

 荒れる海から。
 津波の到達直前に。

 ぎりぎりの…上空ホバリングで。

 一人でも多く、釣り上げて、避難を…!
 と。
 文字通り、命を懸けて、命を落とす…

 そんなボランティア・スタッフも続出した。

 それでも。
「目標・毎日百人を宇宙へ!」…と。

 現地での救済活動を志願する若者たちは後を絶たなかった。


     *


 海洋難民たちの収容がおおむね終わると。
 陸部を放浪する者たちが救済される番となった。

 まだいくらかは生存に余裕のある立場の者たちは。
 逆に。

「タダで救済? 胡散臭い!」と。懐疑的に忌避した。

「収容と検疫と医療と輸送は無償。
 当初一年間の衣食住と最低限の『宇宙市民義務』教育と。
 基本的な職業教育に関わる費用は無利息無督促で貸与。
 当初職業は無料紹介。収入から天引きで当初生活費用を返済。
 その後の職業選択と、返済前でも自力での転職・転居は自由。」

「当初最低保証空間は『2m×1m×1m』の『個室寝床』!」
「持って行ける荷物は、一人30×30×30cm の箱のみ!」等々。

 厳しい条件と、実行組織への…
 不信感で。

 あえて『地表残留』を選ぶ者も…

 やはり、多かった。


     *


「余裕をもった早目の避難勧奨」は、早目に諦められた。
『緊急生命救助!』活動が最優先と、看做された。

 巨大地震の発生直後。
 遠方津波の到達目前。

 致死性の高い感染症が蔓延している地域…

 ぎりぎりの死線をさまよう人たちに。

 後日、「ひとさらい!」と。恨まれるような…
 強引さも、一部に含んで。

 最前線からの救済用小型舟艇と、宇宙打ち上げ往復舟艇は。

 必死で。
 善意で。

 活動を、続けた。

 そんな日々が。
 何年も続いた。


     *


 一方で。
 宇宙空間は。
 増え続ける人口に、賑わい。

 今を盛り!と。
 活気を溢れさせていた。

 愚にもつかぬ権力闘争と。

 権勢を競い、ムダに浪費し。
 競争のために弱者を殺し。
 軍事力を得て、他の宇宙基地を制圧しようとする。

 バカモノどもも、
 再び、現われた…。

 それらを一喝し制圧することで頭角を現したのが。
 日系人の 豪田 行 (ゴーダ・ユク)だった。
 トキ・マサトらは全面的に賛同し、資金援助した。

 新たな『宇宙移民者連合』という平和共存を旨とする。
 自称『太陽系統一(予定)政権』が樹立された。


     *


 安定を得た宇宙での生活においては。

 失われた地球の生活の。
 置いてこざるを得なかった…
 懐かしい物を懐かしみ、惜しみ嘆きながら暮らす者も…
 多かった。

 地表に。

 捨て去られた、大量の遺構や廃墟から。
 何やかやと『発掘』や『盗掘』や…の。
 物品を、宇宙へ運んで売買する。

 そういう稼業と売買のルートが、あっという間に拓かれた。


     *


 ニョゼ・ガモン提案で。

『不信感から地表残留』組たちに対して、提案が、為された。

「地表の文物を採集して、我々宇宙人に、販売してほしい。
 その交易利益を積み立てて。
 いずれ自らの力で納得の行く条件の『宇宙移住基地』を購入する予定…
 と、いうのは、どうか?」

「こちらの指定する文化財や文献を発掘してきてくれるなら、
 対価として金銭ならびに必要な食糧や医薬品や水を支払う。」

等々。

「対等な商売」関係を構築することによって。
 先行宇宙移民勢は。
 地表残存組からの怨嗟と不審の声を。

 ようやくに、払拭しえた。


     *


 少し後の時代。

『終末獣』と名乗る一種のテロ組織が。
『地表残存全生命群の抹殺』を含む『生命総粛清計画』を発動させた時。

 残存人類が速やかに救済船団によって回収され、避難し得たのは。
 この時の取り決めに依る。

 その後の地表に残るのは。
 ただ。
 漂白され抹殺され、有害致死性ウィルスさえも一株として残らぬ。
 不毛の。
 砂漠ばかりであった…。


     *


 これが。

 のちのちの時代にまで永く語り継がれた。
『電設の伝説』こと。

 生命皆救!を掲げ謳い、成し遂げた…
(と、される)。

 トキ・マサトの物語の。
 概要である。