(破) 友の物語
この時期、トキ・マサトはとにかくひたすら多忙の日々だった。
「いくら払ってもいいわ! どこか一カ所だけでもいい。
『トキ本人に』『オリジナルな設計を』してもらったと、
自慢できる部分が欲しいの!」
…という。
ファン心理なのかステイタス自慢なのか?
判然としない『特注』が。
やたらと多かったからである…
「からだ壊すよッ?」
往時の『天才児クラス』入学式当日からの親友であり、タテルゼ社の副社長にして総合支配人でもある、由利士郎は。
常に心配していた。
「う~ん… まだ大丈夫… たぶんね…☆」
なかば寝ぼけ眼の。
何日も入浴すらまともにしていない、よれよれの汚れ姿で呟きながら。
トキはとにかく大量の。
設計施工図面の作製だの修正だのに、ひたすら取り組んでいた。
これ以上よけいな仕事を増やさせるな!と。
ユリシロウは営業部門に厳命しようとしたが。
「とにかく1cc(宇宙通貨)でもいいから、多く払わせて!」
…という『WAGAYA』シリーズ受注に際しての。
トキ厳命の基本方針のほうが。
常に優先とされた。
(むろん金持ち向けの『WAGAYA』で。四苦八苦しながら稼いだ分で。
庶民向けの『DANCHI』シリーズは。破格の安さで。
急ピッチで建造され、分譲されていたので…)
*
「…部屋に寝に帰るヒマもない…」
とは、トキ本人も嘆いてはいて。
特に心配していたのが。愛犬レックと愛猫サンドラの。
ご飯と散歩の世話である…。
「おれが行きましょうか?」
代わりに申し出たのは。
『WAGAYA』シリーズの細部最終設計と資材数算定・発注部門を担当していた、平社員の。
ポール・堅井 工 (かたい・たくみ)=デ・オーエンだった。
たまたま比較的「定時で帰れる」部署の勤務で。
たまたまトキの個人アパートと部屋が近かった。
というだけの縁ではあったが。
「レックとサンドラが懐いているから」と。
本来かなりのいわゆる『人見知り』である、
トキの心証も非常に良くなり。
「お礼に」と。
時間のある時にはご飯を奢ったり。
一緒に酒を飲み歩いたり…
飲み過ぎれば、そのままお互いの部屋に泊まりあったり…
する、仲になった。
*
「あのふたり、デキてるの? ただのモフり仲間なの?」
…と。
周りの人間は微妙に勘ぐったり、下世話に探りを入れたり、していたが。
「もふり仲間~♪」
と、トキは元気に明瞭に解答し。
その返事を聴くたびに。
タクミのほうは、びみょう~な顔を。
するけど…?
と、いうのが、周囲の観察状況のまま。
多忙にまぎれ。
いつしか、関心も薄れていった。
*
「…うんいいよ? 来れば? お昼用意できるよ?
今日は四匹とも、家にいるよ~?」
…と。
トキが。
タクミまでをも含めて『総勢四匹』の『同居家族』と。
数えるようになっていたことに。
親しいスタッフらが気がついたのは。
『WAGAYA』シリーズの予約受注生産リストが終わりに近づいて。
ようやくそれぞれが自分の今後の人生を。
ゆっくり考える?余裕ができた…?
と、思った。
その一瞬の。
すきまの日々の、できごとだった…。