(転) 青春時代 (3) 世界創造


 破格の安値で特許使用権を売りまくったが、それでも莫大な利益を産んだ。

 ここで経営首脳陣たちは合議の上。
『銀河映遊電設』における『初期作品』、
『ミニマム・シリーズ』製造販売部分を。
 分社化して子会社となし、責任を分離した。

 同時に『寝落ち椅子』と『汎沐』の製造改良ラインも。
 別部門として立ち上げ、独立採算性にした。

 既存の従業員の。
 生活を護るためと。

 これから始まる一大事業に。
 全力で傾注するためである。


     *


 満を持して、新社名『 多照是 』( TaTeRuZe!)と。

 一大プロジェクトが…
 発表された。

 これから、新・宇宙居住基地…群の。
 民間一社での。
 独自建設展開と。

 個人客向けの。
 分譲販売を、開始する。

 …と、宣言しても。

 もはや、誰も。
 驚かなかった。

 歓呼と歓迎の声だけが、わき起こった。


     *


 当時の宇宙居住者と居住スペース群の特徴は、大別して五つに分かれる。

 元々の地表の『国家』単位で開発競争が展開された『軌道基地』群の。
 研究または軍事目的の小規模施設。
 歴史的には最も古いが、人口割合的には極少。
 主な『本国』籍はアメリカ・ロシア・中国・インド。


 次に、やはり『国家』単位で近年急増乱立した、
『避難移住用』スペースコロニー群。
 人数的には比較的多数派を占めるが。
 人種と職業と性別と年齢構成が、極端に偏っていて。
 いわゆる『自称・エリート』たち。
 国民と国土を見捨てて自分たちだけ『安全な』宇宙へと逃げ出してきた、
『支配者』や『権力者』。
 自己評価だけは『選良』『優越民族』等とやたらと高い。
『宇宙近所』づきあいには向かない、ありがたくない手合いが、かなり。

 主な『本国』籍はやはりアメリカ・ロシア・中国・インドの。
 四大国『エリート層』に加え。
 新日本皇国を筆頭として。
 軍事独裁(民衆弾圧)政権が支配する二流三流の劣勢諸国からも。
 多数の無責任な逃亡者たちが宇宙に流入していた。

 そして。

 いわゆる超国家・無国籍資本と呼ばれる。
 欧州とアラブ・アフリカ系人種を中心とする、血族結社的な複数の巨大企業連合が。
 総力を挙げて血筋の者たちを送り込んできた『純血保存コロニー』。
 なるものが多数乱造され、さらに新たに展開されつつあった。

 ところが。
 最初期の宇宙移住で粗製乱造された資本家コロニー群は。
 納期圧迫のあおりで設計も施工も雑な上に。
 緊急避難的に詰め込まれた人々で…
 人口密度が、異様に高かった。

 それまで地上で広大な所領を誇り。
 豪勢で自儘な暮らしに慣れてきた資本家一族主流派の者たちは。
 移住後まもないうちからその居住性のあまりの悪さに。
 大いに不平不満を鳴らしまくっていた。

 また、事故や老朽化による『強制転居』も多く。
「ゲットーじゃないか!」と罵られるほどに劣悪な生活環境のコロニーも、増えてきていた。

 デブリや隕石にも弱く。自爆事故も多く。
 そのたびに救援活動を迫られる近隣他コロニー群の大きな負担ともなっていた。


 そして総人口的な意味での最大派閥がむろん『3PS』を中心とする非政府(NGO)組織『FIFS』系の民間個人移住者たちと。
 その盟友たる被差別民族特殊技能者避難移住集団『LE・MOON』の二拠点だったが。

 かなり丁寧な設計施工を誇り、居住性にも最善の配慮を尽くした『3PS』でも。
『協力者』みな平等!という建前の…もと。
 巨額の私財を「惜しみなく」寄付したと自負する個人的な大富豪らからは。
 その寄付金額に見合わぬ居住性の低さ(特に狭さ)が不満だ!と…

 大いに、嘆かれていた。


     *


 地表環境が今や風前の灯となり、
 今なお多数の生命が危急存亡の状態に放置されていても。
 あいかわらず、宇宙空間へと「移動しただけ」の権力者や資本家たちは。
 仮想通貨なる幻影の多寡を競って。
 暗愚なつばぜり合いを繰り広げているのだったが。

「そこ、ビジネスチャンス。…だよね?」

 トキは幹部会議の席上で、に~っこり! と、笑った。

「高くて良いものがあったら。カネに糸目はつけない。
 幾ら高くても買う!ってお客さんが。
 結構たくさん、いるわけだから…」

 住民の不平不満は。政治的火種?という杞憂の種ではなく。
 イコール、潜在的(優良)顧客層!
 …だと。
 発想のコペルニクス的な大転換を、求めたわけだ…。

 だって。

 技術はある。
 設備もある。
 スタッフも揃ってる。

 資本金も人脈も。
 販売ルートもある。

「…つくらないテは、無いでしょ?」


     *


 発表された建造計画は、大別して二ブランド。

『DANCHI』シリーズは。
 いわゆる『建売分譲または集合住宅個室権利販売』型で。
 母体となる、地球または月の周回軌道上の、宇宙居住基地自体は。
 あくまでも『タテルゼ』社の所有。
 その中の一棟の戸建て住宅、または集合住宅内の一室を。
『間取りと内装の個別選択注文製作権付き』で。
『生涯占有権』を販売する。
(原則として『世代間相続』はできない)。

 これだって『3PS』内の最低保証容積「一人2m×2m×2m」空間に比べれば。
 夢のような… 広さだ。

 公表された予想価格帯と建築予定戸数と所要年数表を前に。
 庶民たちは一斉に、「買うぜっ!」
 …と。
 一気に購買意欲と勤労意欲と。
 個人資産形成・運用意欲を…
 かきたてられた。


     *


『WAGAYA』シリーズは。
 地上においては『超・資産家』と呼ばれてきた極少数派の一族や、人々の。
 いわゆる『失われたステイタス・シンボル』を、補って余りある…
 であろう。
『個人所有用』『宇宙邸宅』の。
 受託注文建築販売…計画だった。

『最低請負価格』と。
 その『最低保証・標準仕様』が発表された瞬間。
 やはり資産家たちはどよめいた。

「買うぞ! …わしが一番乗りだ!」
「何を言うの? 私のほうが先よ! 倍は払うわ!」

 争って「先に!」「より豪華に!」と。
 激しい自己主張合戦を繰り広げる…
 富裕層たちの対応は。

 タテルゼ社の新(名物)幹部で、元・新興宗教?指導者の。
 ニョゼ・ガモン師が。
 交通整理を引き受けた。


     *


 まずは『DANCHI』シリーズの一号棟から。
 建築販売が始まった。

 建てて売って。
 建てて売って。
 建てて売って。

 基本の外郭設計は順次改良が重ねられていく他は単一で。
 すぐに独立した生産ラインが構築されて。
 責任者が任命され。

 ひたすら『働きアリのように』。

 建てて建てて、販売しまくった。

 建築資材は地上と月面と『LEMOON』から採掘輸送されるほか。
 アステロイド・ベルトからの『長距離採集』も。
 試験的に始められていた。

 すぐに。
 リング状に地球を取り巻く、首飾りのような。
『周回軌道団地列車』が…

 地上に取り残された人々からは。
『希望の青い星々』と。

 皮肉られるように…
 なった。


     *


 建築実務担当者たちの業務内容としては。
『WAGAYA』のほうが大難関だった。

 とにかく『お客様のご希望』が、千差万別で。

 一番多い注文が。

『けして他の邸宅とは似通わないように!』

「設計図の流用とか二番煎じとか、恥ずかしいものは絶対にやめてちょうだい!」

 …と、いうわけだ。

 とにかく『クライアントのご希望を、ことこまかに細部にわたるまで正確にお伺い』して。

 設計しては没!だの、
 ダメ出しだの、軌道修正だの。

 施工直前になってからの、「一から全面改訂!」だの…。

 徹夜に次ぐ徹夜。
 悲鳴に次ぐ悲鳴。
 折衝係と設計部と資材調達係の間では常に殺伐とした怒号が飛び交い。

「…残業代支出のほうが固定年棒より多いブラック企業に…」

 と、人事部長を嘆かせた。


     *


 しかしとにかく仕事は多かった。

 のちにこの十数年間は。

「毎日が学祭のようだった。」と。

 苦笑とともに懐かしく語られる日々となった。