第1話



僕は昔入院していた。もう病名も忘れてしまったが、長期間の入院を余儀なくされた。
そんな時に出会ったのが彼女だった。

初めてあったのは入院生活がようやく慣れ始めた3日目だった

「ねぇ君はどんな病気なの?」
診察が終わり、小児科の待合室で本を読んでいると、声をかけられた。
椅子に座っていたため、上を見上げると、同い年くらいの歳の女の子が軽く微笑みながら聞いてきた。
髪の毛が自分のおでこに着きそうだった。
僕は覚えていない病名を伝えた。
「へぇ大変だねぇ」
まるで他人事のように言った。
実際他人なのだが。
僕はその返答に困った。
それは下校中、近所の人に挨拶をすると「おかえり」と言ってくる老人のそれに近かった。
困った挙句何も頭に言葉が浮かばなかったので頷くと、彼女が嬉しそうに笑った。微笑みより強い笑顔だった。
その日はそれで名前も知らない彼女は無言で去っていった。笑顔のまま。
人見知りの僕は少し疲労した。

病棟に戻り、味の薄い病院食を食べた。その味はまさにこの入院生活と重ね合わせることが出来た。
そこからテレビも見ずに本を読み耽った。
気がつくと短針が9時を指していた。
目が疲れたので凝りをほぐす運動をすると、眠気が来た。入院中は何故こう欲に忠実なのだろうかと考えたことがあったが、答えは出なかった。
目を閉じると、眠気はすぐに来たので、やはり欲に忠実に行動した。
夢を見た。輪郭の見えない夢を。
それはあまりにも幸福で、あまりにも悲しい夢だった。