奏世が家にやってくる。
「お忍びデートもいいけど、家ならのんびりできるよね」
そう言いだした奏世に、私は
「……じゃあ、今度来る?」
と思わず提案してしまったのだ。
学校のない日曜日に招待するので、勿論両親も妹も家にいる。それなら安心かなと、奏世のことを警戒している訳ではないがそう思った。
部屋は特別散らかってはいないけれど、彼氏が家に来るのだ。いつも以上に掃除機をかけたり、必要以上に本棚を整理してみたりした。
両親は私たちの関係を知っている。……というのも、隠すつもりは最初からなかったが言い出す前に妹が口を滑らせた。
「それにしても、奏世くんが彼氏だなんて自慢だよね」
そう言った円花に、母は目を輝かせながら食いつき、父は真顔で部屋に籠ってしまった(慰めるのに随分時間がかかった)。
そんな妹も羨ましがる彼氏、牧丘奏世が家にやってくる。
「こんにちは。お邪魔します」
日曜のお昼頃、奏世は時間通りにやってきた。
「いらっしゃい、奏世くん」
「お休みの日にすみません。これ、良かったら皆さんで食べてください」
「あらやだ、気遣わなくて良かったのに。ありがとう、ありがたく戴くわね」
奏世はご丁寧に、美味しいと評判のお店のバウムクーヘンを持ってきた。母は実際に奏世と会うのは初めてで、実物の方がかっこいいだの、環奈はいい男を捕まえただの、興奮気味だった。
お昼の時間だったので、母は手料理を振る舞ってくれた。
「ほら、うちは女の子二人でしょ?食べっぷりがいいと、嬉しいわ」
「すみません、美味しくてついおかわりしちゃって」
「いいのよ、もっと食べて頂戴」
母は随分とご機嫌だ。
家族からの手厚い対応に、年頃の男の子なら気恥ずかしかったり嫌がったりしそうなのに、奏世は本当に楽しそうにしていた。そんな奏世を見て、私だって自慢の彼氏だよ、と心の中で呟いた。
食後のデザートを食べた後、ようやく私の部屋に案内した。
「どうぞ」
「おじゃましまーす。……うわあ、環奈って綺麗好きなんだな」
奏世はきょろきょろと目を動かしながら、遠慮がちに部屋に入った。
私も、男の子を部屋に入れるのは初めてだ。家に招待したのも初めて。
奏世は興味深そうに本棚を見て、「環奈もこの作家さんの本読むんだ」とか、「あっ『光待つモーメント』!年明け公開だよね、そういえば」等と口にする。
私は相槌を打っていたけれど、実はそんなことよりも気になることがあった。