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 食事を済ませてから、宏樹は子機を手に自室へと戻った。

 あの会話のあとだし、あまりにも分かりやす過ぎかと思ったが、それ以上に、一刻も早く電話をしなければという気持ちの方が大きかった。

(まさか、千夜子から電話がかかってくるとは……)

 最後に那賀川千夜子に電話した日、相手から、もう逢わない、と言われていたので宏樹が驚くのも無理はない。

 宏樹は、珍しく緊張している自分を感じながら、未だに憶えている番号を押してゆく。

 全て押し終えると、電話の向こうでコール音が鳴り出す。

(どれぐらいで出るだろうか)

 そう思っていたら、わずか三回目で受話器の外れる音が聴こえてきた。

 宏樹は一呼吸置き、「もしもし」と電話の向こうの相手に言う。

『――コウ?』

 向こうから、懐かしい声が届いてくる。
 とは言っても、数ヶ月も話さなかったわけではないのだが。

『久しぶり』

 声の主である千夜子は、以前と変わらず柔らかな声で告げる。

 宏樹は少しばかり呆けていたが、千夜子の声でハッと我に返った。

「ああ、久しぶり」

 宏樹が答えると、千夜子は『元気だった?』と訊ねてくる。

「うん、何とかやってた。千夜子は?」

『私も、ボチボチとね』

「そっか」

 そこで会話が途切れてしまう。

 宏樹の中では、胸の鼓動がいつになく速度を増している。
 電話の向こうの千夜子にも聴こえてしまうのではないかと錯覚してしまうほどに、音もずいぶんと高鳴っている。