光が収まるとそこは執務室の中であった。
目の前の机には羽根ペンを走らせる男がいた。

「・・・やっと来たか
って大丈夫か?」

よろめき膝を付いていた俺に心配そうに声をかける。

「大丈夫です・・・
転移魔法|《テレポス》はあまり慣れなくて・・・」
「便利で良いのだがな〜
まぁ、そんな事よりだ!
例の件はメガスさんに任せるとして、僕の方でも問題が起きている」
「問題ですか・・・?」
「まぁ、見た方が早いな
これを見てくれ」

ずっと執務をしていたのだろうボサボサなくせっ毛の黒髪を掻きながら1つの羊皮紙を見せてきた。
翻訳用の眼鏡を取りだしその羊皮紙を受け取り眺めた。

「・・・・・・・たしかに問題ですね」
「そうだろ?」

羊皮紙の内容は以下の通りだった。

《はぁーい♪
歌姫こと海守|《セイレーン》のピーニャだよ♪
今度クリスいる『ガリア』の街に行くから準備しておいてね♡
みんなが辛い時こそ私の歌で盛り上げようね♪》

「あの件は最低1ヶ月程先に準備しなきゃいけない事がありますのでその間にこちらを済ませる形でいいんじゃないでしょうか?
同時になると色々まずいですし・・・」

羊皮紙を丸めクリスに返す。

「1ヶ月・・・?とりあえず実行できそうなのはわかった
だけどなにか先にしないといけないことがあるのか?」

羊皮紙を仕舞いながらクリスが不思議そうに聞き返す。

「神殿がありました
コルツ曰くビエラの神殿と言うらしいですね
なんでも戦争してた時期に顕現してたらしくて・・・」
「あぁ・・・我が連合国の併合作戦の時のいざこざか
僕は生まれてもない時代の話だから良くは知らないけどね
えーと・・・これだこれ!
君も詳しくはわかっていないだろう?」

クリスは立ち上がりひとつの本を取りだしてきた。

「我が国は『生き証人』が多すぎてこんなのは必要ないかもだが当時の資料だよ
帰ったら一応目を通してみるといい
なにか役に立つかもしれないよ」
「ありがとうございます
自宅に戻ったら見てみます」

渡された本を仕舞いながらそう答える。
本を仕舞い終えるのを見計らってクリスが喋り出す。

「どちらの件も何とかなりそうでよかったよ
コルツ、ヴィルヘルムを自宅まで送って差し上げろ」
「かしこまりました」

いつの間にかコルツが居た。

「館からは近いので歩いてい・・・」

遠慮しようとしたがもう遅かった。
足元が輝き再びコルツによって転移させられていた。