『私は神だ。
・・・と言って全知全能の神ではなくただの神だ。
主神がいてその雑務や地方を守る神様ってところかな?
そんな神様の私が何故君たちに話しかけているかわかるかな?』

そう言いながら目の前の目の高さに掲げた薄く輝く水晶を覗き込みながら話す。

『答えは簡単よ!暇なの!私!
修行してやっと任命された地域の神殿が崩壊寸前とか笑えるわ〜♪
って笑えるわけないでしょう!
百数十年前に来たのに誰も来ない廃れた神殿とかなんなのよ!』

私の大声だけが神殿に虚しく響く。

『・・・・・・ビエラ、落ち着きなって
ここ20年は同じ事で叫んでいるじゃないか・・・』

やっと水晶の向こうから反応が返ってきた。

『やっと反応してくれたわねシエラ
誰も来ないのに私は何をしたらいいのよ!?
そろそろ祟り神になってもいいんじゃないのかしら!?』

滑らかな長い黒髪を掻き乱し私は兄であるシエラに向かって喚き散らす。

「確かにその地域の人達は神殿があること自体忘れているようだね・・・
あと、さっきの自分を説明した感じの言い方ってなんだったのさ?」

「あれは・・・神殿に来た人間に説明する時の練習よ・・・
ってなんで通信繋げる前の事知ってんのよ!?」

いつの間にか私の横に来ていたシエラに振り返りキッと睨む。

「えっ?だいぶ前から繋がってたよ?
・・・鼻歌歌いながら・・・・・・森にお水を〜・・・とか言って・・・・・・あ、雨を降らせてたでしょ?」

笑うのを押し殺し話すシエラ。

「・・・・・・マジ?」

「うん・・・・・・大マジ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

持っていた水晶をそっと台に置き私は膝から崩れ落ちた。
薄く輝いていた水晶の輝きは失せ、その場に静かに転がった。

「ビエラ・・・」

『慈愛』に満ちた兄|《ビエラ》の視線が上から降り注ぐ。

「ちょっと放っておいて・・・10年もしたら元に戻るから・・・」

その『生暖かい目』に更に心を穿たれる。

「僕らは気にしないけどこの地域の人は10年も放って置かれたら大変なことになるんじゃないかな?」

「シエラが代わりにやっておいてよ・・・
私には無理・・・もう心が折れたわ・・・」

そう言いながら神殿の隅へ移動し体育座りをしながら近づかないでオーラを放出していた。

「たかが兄に醜態を見せただけじゃないか
いつもの事だし気にしなくていいと思うんだけどな・・・
おや?ビエラ」

なにかに気がついたらしく私に呼びかけてくる。

「なによ・・・?
私はもう何もしないって今決め・・・」
「誰か来てるよ」
私の話を遮るようにビエラが話す。

「えっ・・・?」

思わず顔を上げ神殿の外を見た。

「ふむ・・・歳は20歳前後、人族|《ヒューマン》の男だね
冒険者かな?」

先に発見していたビエラが呟く。

「短髪の黒髪で180cmってとこね
ここへは調査って感じかしらね。」

さっきの事など直ぐに忘れその人間をみて呟く。

「まぁ、そうだろうね
どうする?1度顕現してみる?」

ビエラが少し茶化すように聞いてきた。

「なっ!そんなホイホイ顕現していいわけないでしょ!?
様子見よ!様・子・見!」

動揺が隠せず思わず叫ぶ私。

「それくらい別にいいと思うけどな・・・」
「うっさい!とりあえずあの人間は何がしたいのか見極めるわ!話はそれからね!!」

そう言うと私は彼を凝視することにした。

「って彼、かなりずぶ濡れだね・・・雨はまだ降らせてたの?」

「あっ・・・ち、ちょっと忘れてただけよ!
・・・・・・っと、これで治まったわ」

意識を少しだけ集中させ雨を止める。

「まぁ、ここを管理しているのは君だしあまり口出ししないでおくよ」

「ちょうど天候的に雨が少なかったからこれくらいなら大丈夫よ
って!私の神殿に入って来てる!?」

「そりゃ濡れてるから乾かしたりしたいんでしょ
気まぐれでびしょ濡れにさせたんだから追い出したりとかはしちゃダメだよ?」

「わかってるわよ・・・」

そう言いながら侵入してきた人間を興味なさげに見つめる。

これが私の神生を決める大きな分岐点だとは知らずに・・・