永遠のような、一瞬のような、そんな沈黙の後、世界史の教科書で見たような城壁都市に僕はいた。テンプル騎士団がいる街です。とでも言われたら信じてしまいそうな、そんな広大な城を眺めた。
紅い空、夕焼けが美しい。黒っぽい雲が遠くに浮かんでいる。灰色にくすんだ石畳の上を目的もなく歩く。失われた歴史、空白の時間。それがなんなのか、僕にはまだ到底わからない。
街の中心部に向かって歩いていた。明らかに周りとは違う服装の僕に対して街の人達は不審そうな目で僕を見ていた。なにやら話でもしたそうな目で僕を見る人もいた。国も時代も違うはずなのに、街の人達の言葉は理解出来た。聞こえてくる言葉は異国の言葉なのに、意味は日本語として頭の中に流れ込んでくる。とても不思議な感覚だった。
幻想的な景観に見とれて、歪に敷かれた石畳に思い切り躓いた。街の人々は珍しいものを見るかのように僕を囲んできて、その中にいた何人かの子供たちが声をかけてきた。

「お兄ちゃん大丈夫?」
「変なカッコ。他の国から来たの?」
「うわ、顔怪我してる。痛そう」

日本語で話しかけて通じるのかどうかの分からなかったので、言いたい放題の子供たちにとりあえず話しかけてみる。

「驚かせてごめんね。僕はちょっと色々あってこの国を旅しているんだ」
「へぇ、旅してるの?」
「どこの国から来たの?」
「変な顔だねぇ」

変な顔は言い過ぎだろう。と思ったが、子供たちはみんな西洋っぽい顔をしているから、アジア系の俺は確かに変な顔に見えるのかも知れない。

「僕はね、この国の王様にお話があってきたの。今の王様の名前、知ってる?」
「王様?グレア=ヘロストさんのことかな」
「王様怖いから話すのやめた方がいいと思うよ」
「王様、確かお城にいつもいるよ」
「グレア=ヘロストさんが今の王様なの?お城にいるんだね。ありがとう」
「もう転ばないでねぇ」
「行ってらっしゃい」
「王様怖いから気をつけてね。バイバイ」

子供たちに見送られ、遠くに見える城に向かって歩き始めた。いきなり問題にぶち当たった。王様の名前は聞いてたのと違うし、どうやら怖いらしい。独裁政治で処刑祭りみたいな王様だったらどうしようとか余計なことを頭の中が駆け巡る。
本当に何も分からないが、言葉だけは通じる事がわかったのは運が良かった。少し情報が欲しかったので、その辺の店先にいた商人のような人に話を聞こうと声をかけた。

「すみません、ちょっとお話よろしいですか」
「なんでぇ、変な格好してんな。異国の兄ちゃんがこんな国のこんな店に何の用だい?」
「実は、人を探していまして……」
「人探しか?悪いが俺はそんなに人を知らねぇんだ。他を当たってくれ」
「グレア=コフィンズ、という名前をご存知ないでしょうか」
「さぁ、知らねぇな。ほら、帰った帰った。俺は忙しいんだ」
「すみません、ありがとうございました」

順当に知らないと一蹴されてしまった。本当に面倒なことに巻き込まれてしまったと心の底から思う。王様のファミリーネームが一致しているだけという細すぎる手がかり一つでは、できることに限界があった。
太陽が傾いて、夕焼け空が少しずつ闇に染まっていく。寝る場所も食料も無い。夜までには何とかしないといけないと思いながら、街の中を栄えている方に向かってフラフラ歩いた。異世界転生なんて、小説かアニメの中の話だけだと思っていたのに。いざ自分がそんな状況になってみると、異世界転生系物語の主人公のように都合よくストーリーが進んだり、強い仲間ができたりとかはしなかった。世知辛い世の中だ。世知辛い世の中だなんて、転移した先の異世界で言うセリフでは無いだろうに。