残業できないと言った手前、早めに帰ることにした。
 更衣室で確認した携帯に琥太郎さんからメールが来ていた。

『そろそろ夜祭りの準備を始めるよ。狐の舞の練習をするんだ』

 メールを見て、急いで電話を掛けた。
 狡い大人から、早く純粋な頃に戻りたかった。

「もしもし? 琥太郎さん? 私も狐の舞、練習したい」

「何? 何? 急に」

 驚いている琥太郎さんに構わずに「お願いします」と頼み込んだ。

「嬉しいよ。もう大村に来てくれないかと、心配してた」

 私も、もう行けないと思った。
 私みたいなのが、行っちゃいけないのかもしれない。

 でも今の私は、大村に逃げてしまいたかった。