祖母の家に行きたくないわけではない。
 ただ、いい思い出が壊れてしまうような気がして、大人になるにつれ足が遠のいていた。

「あー。ここは涼しいや」

 異常気象が、五月なのにニュースで真夏日を伝えている。
 けれどもここは、アスファルトさえも見当たらない田舎道。
 心地よい風が吹く。

 祖母の家に行く前に、思い出の場所に足を向けた。
 何十年ぶりだろう。

 古い公民館の裏。
 今も鬱蒼とした木々。
 薄暗い奥に、微かに見える祠。

 大人になっても不気味な空気。
 背すじに寒気を覚えた。

 パキッ。

 不穏な音に驚いて、身を固くすると音よりも驚くことが。

「山浦……美樹?」

 どうして私の名前を!?

 引けた腰で足音と声のした方を見ると、若い男の人が立っていた。
 年の頃は年上だろう。
 物腰が落ち着いている。