「違うんだ。まだ心配されるような歳じゃないよね?」

 振っていた両手を力なく下げ、観念して話すことにした。
 母の話をするのは、あまり得意ではない。

「うん。うちの母親、結婚相談所をしてて。だから早い時期から、美樹ちゃんはどんないい人と結婚するのかしらねって周りから言われて」

「だから勧められるんだ?」

「そう。嫌になっちゃう。母親自身は失敗してるくせに、それを棚に上げて」

 次から次へと母への恨み辛みが込み上げて来そうで、キュッと唇を引き結んだ。

「急がなくても、いいんじゃないかな。添い遂げたいと思う人が現れるまでは」

 優しい穏やかな声色に、心が解れていく。
 優しい顔をしている琥太郎さんへ、自然に質問がこぼれた。

「琥太郎さんは、そういう人がいるんですか?」

「どうかな……。会いたい人はいるかな」

 遠い目をした琥太郎さんは、どこか寂しげだった。
 待っている人がいるのかもしれない。