「私が行く必要ある?」

 窓の外を眺めれば、景色が流れて行く。
 思いを馳せていた祖母の田舎とは、似ても似つかない風景だ。

 飛ばされていくビル群。
 目まぐるしく変わる景色は、何もかもを飛ばしていくような感覚。

「私たちが別れても、美樹のお父さんにおばあちゃんでしょうが。二十六になっても、口答えは相変わらずね」

 こういう時だけ母親面に父親面。
 嫌になる。

 ガタガタと音を立て、反対車線から来た電車でビルさえも遮られた。

 人ひとヒト。
 ドアにもたれかかる人、つり革を握る人、座席に座っている人の後頭部。

 それらは反対方向に向かう電車と共に、全てを過ぎ去らせて遠のいていく。

「じゃお願いね」

 一方的に話して、勝手に去っていく。
 去っていく電車の方がよっぽど良心的だ。
 人々の役に立っているのだから。

 心の中で悪態をつき、隠し切れなかった溜め息を一人漏らした。