電車に揺られると、その祖母の田舎の中に思い出す風景がある。
のどかな田園風景の中に小さな家々。
小さな家の正体は稲塚。
籾を取った後の稲藁を、積み上げ家のような形を作ったもの。
そこには心温かくなる笑顔があって、時を忘れるひと時だった。
大人になるにつれ、その風景を見ること自体が難しくなった上に、今は時間に追われ、あの時のような時間の進み方に戻る事は難しくなっている気がする。
「ねぇ。聞いてるの?」
急に現実に引き戻され、私の隣に座る人物に意識を戻す。
久しぶりに会えば小言ばかり口にする母が、七人掛けの隣の席を陣取っている。
もういい大人なんだから、離れて座りたい。
「美樹!」
痺れを切らしたような母の声に声を落とし、注意する。
「お母さん。ここ電車だから声を落として」
母の口から、垂れ流しにされる話を聞いていないわけじゃない。
ただ相変わらず、自分勝手な母親に嫌気が差していただけ。
白髪混じりの髪を振り乱して話す母の話を要約すると、熟年離婚した父から連絡があった。
どうやら父方の祖母の家が、立ち退きにあいそうだ。
寂しがっているから、美樹が行ってきなさい。だ。