「美樹ちゃん。遠いところからよく来たねぇ」

 腰の曲がった祖母に出迎えられ、家に上がる。

 懐かしいおばあちゃん。
 記憶の中の祖母よりも、ずっとずっと皺が刻まれて小さくなってしまった気がする。

 きっとそれは自分が大きくなったからだとは思うのに、寂しくて直視するのが辛い。

「なかなか来れなくてごめんね」

 形ばかりの謝罪なんて、なんの意味もないのに祖母は頬を緩めた。

「何を言ってるの。今日来てくれたじゃないの」

「……うん」

 立派な日本家屋。
 板の間が、綺麗に磨かれている。

 囲炉裏もあり、冬に鍋を囲むのは最高だ。
 夏は夏で、囲炉裏に火を焚べれば空気が流れる。
 湿気た重い空気をカラッとさせ、過ごしやすい。

 代々燻されている天井の梁は、黒く煤けている。

 母はこんな古ぼけた家に行きたくもないと、陰口をたたく。
 私は、趣のあるこの家が好きだ。

「立ち退きなんて嫌だね」

「そうねえ。若い人達が反対運動して、新しく田んぼアートっていうのをやるそうよ」

「田んぼ、アート?」

「興味あるなら見ておいで」