時は、西暦2025年。東京の小さな街に、今日子はいた。家は、アパートの貸家で1DKだった。
 
 今日は、今日子の兄、一郎が亡くなった一周忌であった。
 今日子の実の母親は、他界していた。だから、父は、継母と再婚したが、うまくいかずに、離婚した。
 
 「今日子、うまくやっているか?」実の父、小五郎が話しかけてきた。
 「大丈夫、うまくやっているよ。心配しないで。」と今日子は答えた。

 内心、心は限界だった。降りかかる火の粉を払うので、精一杯。でも、継母の前で、不満は言えなかった。手をギュッと握り締めて、我慢した。

 継母は、シズ子という。シズ子はこう言った。
 「あなた、今月の養育費は?」
 「待ってくれないか?もうすぐ渡す。」

 翌日は、日曜日だった。今日子は、洗濯をして、それを干した。それから、風呂場洗い。終わりに、家の中の掃除もした。

 「遊びに行ってきます」今日子は、シズ子にそう言った。
 「宿題は、やったの?」シズ子は、尋ねた。
 「はい!」と言って、息ぐるしい家から、離れた。

 街を歩くと、家族連れが多い。ある子供は、楽しそうに笑っている。
 「お兄さん」と心の中で、呟いた。
 「なんで、いなくなってしまったの」

 公園のベンチに座った。日射しが強い。
 「君に預かってもらいたいものがあるんだ」急に帽子とサングラスをかけた男が、今日子に、話しかけてきた。
 「えっ」今日子は怯えた。知らない人だ。

 「このスマートウォッチを、しばらくの間、持ってて欲しい」
 今日子は思った。「なんだろ、なぜ、私に?」
 「説明書はない。でも、君の助けになる」そういって、男は去った。
 「なにこれ、画面は真っ暗だし、全然わかんない。」今日子は、公園の隅に目掛けて、それを、投げ捨てた。

「おい、痛えじゃないか?君が今日子ちゃん?」
 「えっ?」今日子は、時計を、いや、正確に言うとコミュニケーターをとりに行った。
 「君、誰なの?」
 「ジャーン、君のデジタルお兄さんで、名前は、たけしだ。よろしくな?」
 「あっあたしのお兄さんは、一人だけなの。代わりなんて、いないの、わかった?
たけし」
 「冷えな。優しい子って聞いてたんだけどなー。」
 今日子「これを渡したおじさんの連絡先は?」
 たけし「しらねー?」その反応にムッときた今日子は、
 「じゃあ、落とし物として、警察に渡してやるから」

 交番に来た今日子。
 「これ、近くの公園、で拾いました。落とし物です。」
 「ありがとう、もし落とし主が見つかった場合に備えて、住所、名前、連絡先を書いてください。」

 今日子は、交番を離れた。
 これで、このお話は、終わるはずだった。