「女抱いた後の酒はうまい。」

 缶ビールを片手に航は言った。

「航さん…そういうこと、ここでも言わないでください…。」
「誰も聞いてねーよ。気にすんな。」
「そういうことじゃ…。」

 言い掛ける百合の唇を、航は唇で塞ぐ。ふたりは見つめ合う。航の唇は、百合の首へ、体へ。ふたりは重ね合う。そして抱き合い、じゃれ合う。ふたりは変わらない無垢な愛を感じ、変わらない無邪気な笑顔をしていた。

「相変わらずきれいだな…。髪も声も…。」

 テーブルの上。箱に手を掛ける航。

「待って、航さん。」
「何だよ。」
「それ…、必要ですか…?」

 航は箱からそっと手を離す。テーブルにころんと倒れた。百合は布団で顔を半分隠す。

「恥ずかしいのか?ビビってんのか?」
「び、ビビってません!」

 すると航はやさしく言った。いつもよりやさしい声、やさしい目。

「本当にビビってないか?」

 心配する目ではなく、やさしい目。百合は自然と布団から顔を、体を出す。航を求めた。その航の目に艶が出てくる。

「航さん…。教えてください…全部…。」

 百合の手は航の頬を、航の手は百合の体を、それぞれ撫でる。今までふたりの間にあった、たったひとつの薄い壁。なくなったふたりは本当を知る。

「これからはティッシュをテーブルに置こう。」

 缶ビールが空になった頃。百合は航の胸の中。こっそり言う。

「航さん。私お願い事、叶っちゃいました。初詣のお願い事。」
「何だったんだよ。今言えるか?」
「日々精進しますので、航さんを支えられますように…できれば一生…。」
「何だよ『できれば』は余計だろ。」

 笑う航も言った。

「オレも叶った。」
「え?お願い事ですか?」
「百合と結婚する。」
「え…。」
「叶った。」

 航は百合の頭にキスをした。

「え…?」
「これから色々やることあるけど、とりあえず決めようぜ。」
「あ、新居ですか?場所はこの近辺でいいですよね。それで…。」
「ちげーよ。子供の名前だよ。すげーよな、女は。あんなとこから赤ん坊が出て…。」
「航さん…!私は真剣に…!」
「むきになるなよ。オレだって真剣だ。考えようぜ。」
「もっと…現実味のあるものから…!」
「子供の名前だって現実的だろ?何人作るかも。オレは頑張る。仕事も、小作りも。」
「もう寝ます。おやすみなさい。」
「おい、こら。犯すぞ。」

 翌朝。結局犯された百合は、息苦しく目覚める。航の腕と足が体の上に乗っていた。

「く…るしい…。」

 百合の声で、パッと目を開く航。

「おはよ。」
「おはよう…ございます…。航さん、いつもいつ起きてるんですか…。」
「あんたが起きるちょっと前に目が覚める。いつもすげー気持ちよさそうに寝てるよ。寝顔もきれいで…。」

 百合は両手で両頬を隠す。

「それより、百合。」
「何ですか?」
「今日は1日中、あんたを抱いていたい。たまにはそんな日があってもいいだろ。」
「えっ。」

 航は百合を押し倒す。

「航さん??」
「百合。」
「はい。」
「好き。」
「知ってます。」
「百合。」
「はい。」
「したい。」
「何回するんですか?」
「何回…数えてみるか。おい、何かメモるもの…。」
「航さん!」
「冗談だ。じゃあ、始めよう。1回目。」