「うまそうだなー。もういいんじゃねーか?」
「もう少し火が通ってからです。」
百合は作ろうと思っていたものを変え、航の為に鍋にした。その為の買い出しだった。少し落ち着きがない百合。スーパーで掛けられた言葉が忘れられなかった。落ち着きのない百合に気づく航。
「どうした?具合でも悪くなったか?」
「いえ、大丈夫です。あ、もう食べていいんじゃないですか?でも私の分のお肉は食べないでくださいね。」
「それはわかんねーよ。」
「航さん!」
「じゃあ名前書いとけ。」
「じゃあうどん出しません。」
「百合。」
「何ですか?」
「好き。」
「甘えてもだめです!」
仲良く鍋をつっつきながら、おいしい時間はあっという間に過ぎていった。百合は食器を、航は鍋を、キッチンへ運ぶ。ふたりはベッドに寄りかかる。
「うまかった…。今季最後の鍋か…?」
「そうですね…。でもまた冬になったら…。」
百合は言葉を止めてしまう。不安になる。航との次の冬があるかどうか。
「次はもっと早くやろう、鍋。」
「はい…。」
百合の不安はすぐに解消された。ほっとした百合から言葉が出た。
「…したい…。」
「ん?また鍋か?」
「したい…。」
百合は航を見つめる。百合の目はとろけるほど甘かった。
「航さん…したい…です…。」
航は百合の頭をなで、髪をするっと触った。
「そんな目で見るなよ…。」
鍋で暖まった体が、さらに熱くなる。抱き合うふたりに、言葉はない。
おいしい時間もじゃれあう時間も、あっという間に過ぎていく。航は帰る。その時の気持ちに、百合はいつまでも慣れなかった。
「じゃあな。ゆっくり休め。明日からも無理すんなよ。」
いつもどこまでもやさしい航に、百合はいつも精一杯の笑顔で答える。
「はい、また、です。」
後ろを向いた航が突然言った。
「あ。忘れるとこだった。危ねー。」
「え?忘れ物ですか?」
「違う。でかい袋に入ってる。後で見ろ。」
「?はい…。」
「じゃあな。」
航は笑顔、百合の頭をなでる。そして帰っていった。また会えるとわかっていても、すぐに来る寂しさ。さっきまで航がいた部屋に、百合は入る。
「あ、大きい袋…。やっぱり忘れ物かな…。」
百合は、たたんであった紙袋を広げた。隅に何かがある。封筒だった。真っ白な封筒。百合は手に取る。
「『ユリへ』…。手紙…?」
航からの手紙だった。嬉しい反面、不安もよぎる。少しの間、百合は動けずに、でも手紙を持つ手だけは震えていた。何が書かれているのか、怖い百合。意を決して封を開けた。
.
.
.
ユリへ
いつもありがとう
オレのために、ありがとう
オレはユリに何をしてやれてるか
自分じゃわからない
だから教えてくれ
して欲しいことも教えて欲しい
何だってする
ユリのためなら
今すぐ会いたい、触れたい
初めて思った
愛してる
ワタル
.
.
.
百合は止まったまま。どんな表情もせず、目に涙を浮かばせていた。百合はすぐに航に電話をする。航は帰り道。
「もしもし。どうした?」
何も言えない百合。声が聞こえないことに不安を感じた航。立ち止まって呼び掛ける。
「おい、何があった。今どこにいる。」
百合は、か細い涙声。
「…わたるさん…。」
「どうした、今どこだ。」
「…わたるさん…あいたい…。今すぐ会いたい…。」
「百合…。」
「会いたい、航さん…。会いたいの…。」
「待ってろ。すぐ行く。」
「もう少し火が通ってからです。」
百合は作ろうと思っていたものを変え、航の為に鍋にした。その為の買い出しだった。少し落ち着きがない百合。スーパーで掛けられた言葉が忘れられなかった。落ち着きのない百合に気づく航。
「どうした?具合でも悪くなったか?」
「いえ、大丈夫です。あ、もう食べていいんじゃないですか?でも私の分のお肉は食べないでくださいね。」
「それはわかんねーよ。」
「航さん!」
「じゃあ名前書いとけ。」
「じゃあうどん出しません。」
「百合。」
「何ですか?」
「好き。」
「甘えてもだめです!」
仲良く鍋をつっつきながら、おいしい時間はあっという間に過ぎていった。百合は食器を、航は鍋を、キッチンへ運ぶ。ふたりはベッドに寄りかかる。
「うまかった…。今季最後の鍋か…?」
「そうですね…。でもまた冬になったら…。」
百合は言葉を止めてしまう。不安になる。航との次の冬があるかどうか。
「次はもっと早くやろう、鍋。」
「はい…。」
百合の不安はすぐに解消された。ほっとした百合から言葉が出た。
「…したい…。」
「ん?また鍋か?」
「したい…。」
百合は航を見つめる。百合の目はとろけるほど甘かった。
「航さん…したい…です…。」
航は百合の頭をなで、髪をするっと触った。
「そんな目で見るなよ…。」
鍋で暖まった体が、さらに熱くなる。抱き合うふたりに、言葉はない。
おいしい時間もじゃれあう時間も、あっという間に過ぎていく。航は帰る。その時の気持ちに、百合はいつまでも慣れなかった。
「じゃあな。ゆっくり休め。明日からも無理すんなよ。」
いつもどこまでもやさしい航に、百合はいつも精一杯の笑顔で答える。
「はい、また、です。」
後ろを向いた航が突然言った。
「あ。忘れるとこだった。危ねー。」
「え?忘れ物ですか?」
「違う。でかい袋に入ってる。後で見ろ。」
「?はい…。」
「じゃあな。」
航は笑顔、百合の頭をなでる。そして帰っていった。また会えるとわかっていても、すぐに来る寂しさ。さっきまで航がいた部屋に、百合は入る。
「あ、大きい袋…。やっぱり忘れ物かな…。」
百合は、たたんであった紙袋を広げた。隅に何かがある。封筒だった。真っ白な封筒。百合は手に取る。
「『ユリへ』…。手紙…?」
航からの手紙だった。嬉しい反面、不安もよぎる。少しの間、百合は動けずに、でも手紙を持つ手だけは震えていた。何が書かれているのか、怖い百合。意を決して封を開けた。
.
.
.
ユリへ
いつもありがとう
オレのために、ありがとう
オレはユリに何をしてやれてるか
自分じゃわからない
だから教えてくれ
して欲しいことも教えて欲しい
何だってする
ユリのためなら
今すぐ会いたい、触れたい
初めて思った
愛してる
ワタル
.
.
.
百合は止まったまま。どんな表情もせず、目に涙を浮かばせていた。百合はすぐに航に電話をする。航は帰り道。
「もしもし。どうした?」
何も言えない百合。声が聞こえないことに不安を感じた航。立ち止まって呼び掛ける。
「おい、何があった。今どこにいる。」
百合は、か細い涙声。
「…わたるさん…。」
「どうした、今どこだ。」
「…わたるさん…あいたい…。今すぐ会いたい…。」
「百合…。」
「会いたい、航さん…。会いたいの…。」
「待ってろ。すぐ行く。」