テーブルに百合の花が咲く。ふたりはベッドに寄りかかる。花を見ながら、航は百合に言った。

「…聞いても、いいか…?」
「どうしたんですか?」

 航は一度、大きな息ため息をつく。

「…死にたいほど、つらかったか…?」

 百合もため息をつく。航より小さなため息。

「百合、やっぱり答えなくていい…。」
「消えてしまいたい。」

 航の動きが止まる。

「『死にたい』というより『消えたい』のほうが、合ってる、かな。今思うと…。」

 悲しく笑いながら、百合は話す。目線は少し下。

「でも自分の気持ちなんて、その頃はわからなかったです。子供だったし、余裕もなかったです。」

 航は、気になった別のことを聞いてみる。

「今はどうなんだ?」
「今…。」
「今はどう思ってるんだ。」

 百合の表情は変わらない。

「実感します、生きてること。誰かと仲良くなって、楽しくおしゃべりして、どこかへ出掛けて、恋をして…。みんなそうやって生きてきて、今もそうして生きてるんだろうなって。…航さんと出会って知りました。航さんが教えてくれたんです。」

 百合の悲しく笑う、その悲しみを消したい航。

「楽しくおしゃべりしてるのは誰だ?」
「会社の先輩です。いつもお昼、一緒に食べて、おしゃべりしてます。」
「恋をしてるのは誰だ?」
「…背が高くてかっこよくて…私を笑わせてくれる、とてもやさしい人です。今日、お花をもらいました。」
「その男は今どこにいる?」
「…私の…隣にいます…。」
「そいつのこと、どれくらい好きなんだ?」
「どれくらい…んー…と、んー…。」
「そいつはあんたと、早く鍋をしたいと思ってる。」

 ハッと目が覚める百合。すぐに航を見て言った。

「はい…。お鍋…したいです…。準備します…。」

 航はやさしく笑う。

「こっち向いた。」

 少しずつ笑顔を取り戻す百合。ふたり目を合わせ見つめ合い、キスをする。百合は航にもう一度キスをした。

「さっきの…どれくらい好きか…。教えたいです…。」
「キスで教えてくれるのか?」
「キスだけじゃ…ないです…。」

 見つめ合ったまま、百合は航の頬に触れる。その手を航は握った。ふたりは熱いキスをする。唇、体、息、その熱。その熱が、百合に生きていることを実感させる。体も心も熱くなるほど、ふたりはふたりを合わせた。体を重ね、キスをし、じゃれあう。

「あ!航さん、日付が変わりました!メリークリスマスです!」
「あー、おめでとう。」
「それはお正月です!」
「どっちだっていいじゃねーか。そういえばクリスマスの今日は何をするんだ?」
「あ!お鍋!」
「鍋もいいけど、あんたも食べたい。」
「えっ?」
「鍋、百合、鍋、百合…。ずっとそれでいい。」

 航は百合を包む。包まれた百合は顔を真っ赤にしていた。航は言う。

「顔、赤くしてんだろ。」
「し、してません。」
「してたらどうする。」
「してません!」
「してたら、鍋、百合、鍋、百合、だ。」

 航が見た百合の顔は真っ赤だった。

「決まり。」

 きゅっと口を結んだ百合は航に背を向ける。

「おい、こっち見ろよ。寂しいだろ。」

 航の言うことは聞かず、小さな声の百合。ゆっくりやさしく言った。

「航さん、ありがとう…。お店も花束も、いつも…。」

 やさしい百合の言葉と声。航は言葉の代わり、百合の真っ白な背中にキスをした。

 夜が明ける。ふたりは買い出しへ。クリスマスケーキは買わない、見ない。ふたり用の土鍋と沢山の食材、それとうどん。それらが入った大きな袋を、ふたりで持ちながら帰る帰り道。

 鍋の温かさは部屋もふたりの心も暖かくさせる。

「航さん!そのお肉、私のです!」
「早く食わないのが悪い。」
「じゃあ、うどん出しません!」
「それは関係ないだろ?早く食おうぜ。」
「航さん!」

 念願の鍋。鍋パーティのクリスマス。